2001年11月1日
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グラウンド
※ ※ ※
パンッ・・・・パンッ・・・・パンッ・・・パンッ・・・・パンッ・・・・・・・
「千鶴さん・・・どうしちゃったんですか?」
銃の調整がうまく行かず狙撃に立て続け失敗した私に珠瀬が話しかけてきた。
「あ、珠瀬・・・今日はチョッと調子が悪いみたい・・・」
どうも今日の私はイライラしているのだと思う。
「あの・・・慧さんにもきっと考えがあるんだと思います。だ、だから早く仲直りをいたほうがいいです」
珠瀬が言っているのは今朝のPXでの出来事なのであろう。
先日、私は珠瀬と彩峰に対し、白銀の立場を尊重するためにも中尉と呼ぶこと、敬語を使うことの2点を提案し2人は受け入れてくれた。
だが、御剣がそれをしないと知った彩峰は、そうそうにその提案を反故したのだ。
「足並みがそろわないなら、やめる」
「だからってあなた、私達の取り決めはどうなるのよ」
「榊は頭が固い。御剣が破るならその取り決めには効果がない。
状況が変われば対応が代わるのは当たり前。だから私は柔軟に対応する」
結局、彩峰は白銀中尉を白銀と呼ぶようになり、敬語も止めてしまった。
そして目の前にいる珠瀬も白銀と2人でいる時は普段通りに話しているようであった。
これでは、一人格式ばって接している私が馬鹿みたいだ・・・・
「珠瀬、別に私は彩峰と喧嘩なんかしてないわ、だから仲直りなんて必要ない」
「あわわわわ・・・・・」
おろおろする珠瀬をよそに、つい御剣の方を見てしまう・・・
今日で何回目であろうか?
―― 私のイラつきの原因はきっと御剣だ。
昨日の朝の御剣を見て、私は一度じっくりと話をしようと思った。
私の目から見ても白銀が、私達207訓練小隊に対し何かしらの親愛の情をもっているのは明らかであったから・・・
そして御剣がその理由を知っているような気がしたからだ。
そしてその日の夜に彼女の部屋を訪れたが御剣は居なかった。
この時間は自主訓練をしているのだろうかと思い私はグラウンドへ向う。
確かに御剣は居たのだが、隣に白銀がおり何やら親しげに会話をしている様は予想外であった。
横浜基地の一部に白銀はプレイボーイだという噂があった。
夜にグラウンドで何人かの女性に言い寄っていると。
私もこの目で2人を見るまでは、衛士として優れた白銀に対する妬みと思っていた。
だが、女性と言っても相手はあの御剣だ・・・2人の間に何かがあるとは思えなかった。
きっと何かの相談に白銀がのっているのだろう と・・・・・
―― それにしても・・・白銀と御剣・・・・一体どんな関係なのかしら・・・
ここからでは、2人の会話は聞こえないし聞く気はなかった。
しかし、目が離せなかった・・・・なぜだろう?・・・覗き見なんて、はしたないことだというのに・・・
そしてしばらく見ていると、それが起こった。
なんと、御剣が白銀を後ろから抱きしめたのだ。
とても信じられる光景ではない。よりにもよってあの御剣が、だ。
逆ならまだわかる。
本当に白銀がプレイボーイで世間から少しズレている御剣に言い寄っているというならまだわかる・・・
結局、私は御剣に何も聞けないままその場から部屋に戻ってすぐに寝てしまった・・・・
――
こんな気持ちでは、ダメだ・・・隊のみんなの足を引っ張りかねないわね・・・・・やはり御剣に腹を割って話すべきね。
「ねぇ、御剣。ちょっとあなたに話があるから付き合ってくれない?」
「そうだな榊、今日のそなたは 随分私を気にしているようだ・・・・・言いたい事があるなら話すがよい」
そして私達は昼休みに空き教室へと移動した・・・・
※ ※ ※
――――
空き教室
「で、なんであなた達まで来るわけ?」
千鶴と冥夜に、慧と壬姫が付いてきた。
「何か面白いことが起こりそう・・・」
「御剣さんも千鶴さんもけ、喧嘩はダメですよ〜」
「落ち着け珠瀬、榊は私に話があるだけだ。榊、珠瀬たちが居ても問題なかろう?」
「・・・・・そうね、まあいいわ。
今まで私達は、お互いが抱える事情から、相手のプライベートに深く関わろうとはしなかったわよね?」
「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」
「でも、白銀中尉が関わってきて少なくとも私には事情が変わったわ。今朝、彩峰は私にこう言ったわよね。
『状況が変われば対応が代わるのは当たり前』って。だから私も見習わせてもらおうと思うわ」
「ふむ・・・・それで?」
「単刀直入に聞くわ、御剣。あなたと白銀中尉は付き合ってるの?」
「「―― !!」」
そんな千鶴の大胆さに驚く慧と壬姫、そして答えを求めて冥夜を見る。
「な、なぜ・・・そのような話を・・・」
予想もしなかったことを言われ赤くなる冥夜。
「気を悪くしないでね、昨日の夜
偶然グラウンドの隅で、あなたと白銀が抱き合ってたところを見てしまったの・・・・」
「どういうこと榊・・・詳しく」
「み、御剣さんが!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「しかも、貴方のほうから積極的に・・・」
目を逸らし顔を赤くしながら、そう付け足す千鶴。
「積極的に・・・・」
「み、御剣さん?」
「えぇーーーとだな、その・・・・なんだ・・・むぅ・・・・・」
大きく誤解を含んでいるのだが、こういうことに慣れていない冥夜は しどろもどろになっていた。
「「「じぃーーーーーー・・・」」」
千鶴、慧、壬姫の3人は冥夜を見る。
「ええぃ、声に出してこちらを見るでない! 別に私と武は付き合ってなどいない!!!」
「そう・・あなたと白銀中尉は付き合ってないのね」
「・・・付き合ってもいないのに抱きつくなんて・・・どういうこと?」
「そうです、どういうことですか? 御剣さん」
「そ、それはだな・・・あの時は、ああするのが自然で・・・・・・」
「あーーーもうっーーー! はっきりしないわね!! 御剣は白銀のことをどう思ってるわけ!?」
千鶴は そう言い切ってしまった。
―― 榊・・・自爆だね・・・
――
榊さん大胆です・・・
そう囁き合う
外野の2人
「べ、別に私が武のことを どう思おうと そなたには関係のないことであろう!!」
そう冥夜に言われて千鶴は気付いてしまった・・・
そう、自分の気持ちに・・・・
―― 私の目標は一刻も早く将官に登りつめること。そして白銀との出会いはチャンスだと思った。
白銀はとても優秀。衛士としては超が付くほど優れている。
それに白銀が考案したという戦術機の新OSは現場での戦闘の常識を覆すだろう。
そして香月博士の信認も厚い。
香月―白銀のパイプを生かすことで、父に頼らずとも将官への道も切り開くことができると私は思った・・・
白銀の将来は有望。私は白銀が武御雷4機を倒したあの日、彼についていこうと決めたのだ。
そして彼の昇進を邪魔する存在を私は許さない。
だから御剣が、白銀にとってチョッカイを出しているのだとしたら、それをやめさせようと思っていた。
でも、そんな考えは御剣を邪魔するための誤魔化しだった。
御剣と白銀が付き合っていないと知って、私はすごく安心していた・・・・・・
白銀のような優秀な人間なら、多くの者が好きになったり惹かれたりするのは当たり前、
御剣が白銀のことをどう思おうと、彼の邪魔をする気が無いのであれば私には関係ないことなのだ。
・・・・・・・・・・・・・・
結局、自分より白銀に近くにいる御剣に私は嫉妬していたのだ・・・・・
「・・・・私は白銀のことが好きなんだと思う」
「さ、榊!?おぬし・・・」
「・・・すごい、サプライズ・・・」
「ち、千鶴さん?」
とてもスッキリとした顔で突然の告白をする千鶴にその場にいた3人は驚いてた。
「ご、ごめん、みんな。こんなこと突然言われても困るわよね・・・私もどうかしてた・・・
わたしは白銀中尉に期待してるから、御剣が言い寄ってその足を引っ張ったりするんじゃないかって初めは思ってたんだけど・・・・
ただ自分が御剣に嫉妬してたってことに
途中で気付いちゃった・・・・・・」
その告白に他の3人とも しんみりしてしまう。
「よい、榊・・・そなたが自分の気持ちを素直に出すのであれば、私もうけて立つ。私も武のことが好きだ。
正直、彼のものに会うまで異性に対しこのような気持ちを抱くとは
思いもしなかったがな」
「!!」
「み、御剣さんまで・・・・」
それに驚く慧と壬姫。
一方の千鶴は、冥夜の言葉を素直に受け止めていた。
そして冥夜は続けて言う。
「だが、昨日のことは決してやましいものではない。今は言えぬがそれだけは信じて欲しい」
「わかったわ、御剣。今のところあなたの方がリードしているようだけど私は負け戦が嫌いだから」
「ふ、望むところだ」
「ち、ちょっと待ってください! わ、私の話も聞いてください!!」
「珠瀬・・・・」
「ふむ、そなた・・・」
「・・・・・」
「私もたけるさんのことが好きです! み、御剣さんにも千鶴さんにも負けません!!」
「まったく・・・武も罪作りな男だな・・・」
「いいわ珠瀬、あなたもライバルということね」
「はい!!」
そして冥夜、千鶴、壬姫の3人は慧のほうを向く。
「「「じぃーーーーーーー」」」
「ここで参戦したら、私は負け組」
「あ、あなたねぇ〜」
素直じゃない慧に呆れる千鶴。
「でも戦場には、つねに伏兵がいるのを忘れないでね」
そういって慧はニヤリと笑った。
冥夜は思う。
これも武が何度も世界をループしてきたことと何か関係があるのだろうかと。
――
まったく、奇妙な絆で私達は結ばれているようだ。
そう思っていると突然ドアが開いた。
「あれ〜〜〜、みんなこんなところに居たんだ〜」
現れたのは美琴であった。
「あら鎧衣・・・そういえば今日退院だったわね」
「それより聞いてよ みんな〜。昨日ね、たけるが僕のところにお見舞いに来てくれたんだ〜」
「ねぇ、鎧衣、一応白銀は中尉だから・・・って・・・なんか随分親しそうね・・・」
だが、あいかわらず美琴は人の話をきかない。
「たけるって凄くカッコイイよね〜、僕ね、一目惚れしちゃったかも〜〜〜〜」
さすがにその言葉で、美琴以外の者は固まってしまったのであった。
――――
午後
横浜基地 第二演習場
「白銀さん、模擬戦の準備はよろしいですか?」
スピーカーから霞の声が聞こえてくる。
「霞、今日はお前がHQか? いつも夕呼先生の助手をしてるのは見てたけど、そういうこともやってたんだな」
「いえ、今日が初めてです。」
「はぁ?
先生は俺に絶対に勝てって言ってたくせに・・・・まったく 何を考えているんだ?」
今朝、夕呼は武を呼び出し
こう言った。
「今から改良したXM3を載せて模擬戦を行うから付いてきなさい」
「改良したXM3って、俺が 『2回目の世界』
から持ち帰ったやつですよね?
それにしても突然ですね」
「悪いわね、お忍びで帝国から人が来てて
ちょっとしたデモンストレーションすることになったのよ」
やれやれといった感じで答える夕呼。
「模擬戦の相手はなんなんですか。武御雷ですか?不知火ですか?」
「残念だけど、教えられないわ。もちろん相手もあなたのことは知らないから・・・
ただし、絶対にどんなことをしてでも勝ちなさい。
改良型のXM3を白銀の機体に載せるのはそのためだから」
「はぁ〜、了解しました」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
不知火の中で武は考える。
武御雷を4機倒したことで、思いもしなかったことが周りで起こり始めてるなぁ、と。
帝国の人間が来ていると夕呼先生は言っていたが、模擬戦の相手は
帝国の斯衛がリベンジに来たのではないだろうか?
そうであるなら、武御雷は4機以上、もしくはそれにはXM3が搭載されていると予想できる・・・・
相手の衛士は、俺が武御雷4機を倒したことを知らないことはせめてもの救いということか。
どんなことをしても勝てと言っていたが・・・・
そこで、ふと武は思いつく。
「そういうことかよ、先生・・・・・なぁ霞、お前は相手の衛士に会ったのか?」
「はい、会ったことがあります」
「相手のイメージを捕らえて、それをディスプレーに表示することってできるか?
夕呼先生はどんなことをしてでも勝てって言ってたからさ」
わかりました、と返事をする霞。
そして、しばらくすると第二演習場のマップ上に6つのビーコンが表示される。
「これなら何とかなりそうだ」
そういってニヤリと笑う武であった。
それから10分後に、模擬戦は開始された。
マップに表示された相手のビーコンは扇型に展開していくがその距離は広い。
後方にいる2機以外は2機連携をとっていない。
―― どういうことだ? 俺の模擬戦での目標は相手部隊の無力化もしくは殲滅。
あちらさんは、そうではないということだな・・・
ビーコンの動きをよく観察する武。一見するとXM3を搭載していない武御雷かと思ったが、あまりにもなじみのある動きで思い当たる。
――
これは、XM3を搭載した不知火だ・・・
ということは、現時点で この基地でそれを使ってるのはA-01部隊の伊隅ヴァルキリーズだ。
先生も人が悪いぜ。
みちる達の実力を知っている武にとっては武御雷6機よりもよっぽどやりにくい。
もし相手がヴァルキリーズだと知らずに戦っていたら、勝ち目は無かったはずだ。
――
だがヴァルキリーズだとわかれば逆にやりようがあるということか。
『2回目の世界』
では、12月18日の時点で先任は6名。
そのとき聞いた話では、BETA新潟上陸で3名、クーデター事件で1名、トライアル奇襲のときに2名、部隊から脱落したということだ。
ゆえに11月1日の時点ではメンバーは12名のはず。
この6機の中には武が 『2回目の世界』
で出会わなかった隊員が含まれている可能性もある。
だがそれは些細なこと。
彼女達の動きは、11日のBETA捕獲作戦を想定した訓練で、だから対象であるBETAの発見に重きを置いた陣形なのだ。
そしてそこに付け入る隙があるということだ。
武は、じっと
ビーコンを眺めながら彼女達のことを思い出す。
―― この洗練された動きをする機体が伊隅大尉で、この大胆なのが速瀬中尉か・・・・
武は考える。
発見、捕獲に重きを置いているヴァルキリーズに奇襲をかけて頭である
みちるを真っ先に潰す。
即座に後方支援の2機をやれることができれば、あとはどうとでもなるだろうと。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「午前の模擬戦において、A−01Bは見事、帝国の武御雷を5機大破、1機捕獲した。
私達が遅れを取るようなことがあってはならんぞ、いいな!」
伊隅
みちるの大きな声が各機に鳴り響く。
「大尉は、私達の相手も武御雷6機とお考えですか?」
と茜が尋ねてくる。
「たぶんそれは無いだろう。博士は人を驚かせるのが好きな方だ、だからこそ用心しろ。
我らの目標は制限時間内に対象不明、個体数不明のUNKNOWNを確保または殲滅することだ、それを念頭に入れて対処するんだ」
「「「はい」」」
前衛に4機に みちる、美冴、水月、茜。
後衛に2機に 梼子、晴子 という形で部隊を展開していく。
各機の距離が、離れすぎては連携が機能しない。かといって連携を意識した布陣ではUNKNOWNを探査できる範囲が限られてしまう。
速瀬中尉などは、ビルの屋上などに立って見せて
相手を挑発してみるがまるで乗ってこない。
結局、相手と遭遇してもすぐに駆けつけることができる最低限の距離を意識する形で広域探査を行うことになった。
「なんだか、面白くないわね〜、茜、そっちなんか無い?」
「何も反応ありません、相手は時間制限まで逃げ切る気でしょうか?速瀬中尉」
「相手が帝国の斯衛ならそれはないでしょ、とにかく用心しなさい」
水月はどうも嫌な感じがする。
きまって
その予感は当たったりするから
質が悪いと一人苦笑している時、それは起こった。
「きゃ!!」 と
みちるの声が鳴り響くとともに大尉のビーコンは消える。
代わりにマップにはUNKNOWNの表示が現れ、凄まじい速度で建物の間を移動して後方支援へと接近していく。
「風間!!そっちに言ったわよ」
突然の展開に焦る水月
スピーカーからは叫ぶ梼子の声
「当たれ!当たれ! 当たりなさい!なぜ当たらないのです!変です
この不知火は!速すぎるわ!!!」
それを最後に梼子のビーコンは消えてしまった。
水月は梼子と連携を組んでいた晴子に注目するが、一人で対処できないと踏んだ晴子は大きくブーストジャンプをして、
UNKNOWNを後ろから追いかけていた美冴と合流する。
UNKNOWNはそのまま水月や美冴とは逆方向へと駆け抜け、索敵範囲から消失してしまった。
―― 完全にしてやられた!!
そう唇を噛む水月。とにかく みちるがやられた今、自分がこの隊をまとめなければと気合を入れる。
「いい、みんな聞いてちょうだい!プランBに移行、UNKNOWNの捕獲は断念。殲滅を目的に対処する」
「「「了解!」」」
「それとUNKNOWNの中には、今
横浜基地で一番ホットな人物の白銀中尉がいると思う」
「えっ、あのXM3を搭載した不知火単機で、4機の武御雷を倒したという?」
「そうよ、茜。訓練兵を手当たりしだい手篭めにしてると噂の彼よ」
茜はその訓練兵の中に親友の千鶴が含まれていること知っていて眉間に皺を寄せる。
「訓練兵への噂は本当かどうだか知らないけど、衛士としては超一流であるのは間違いないわ。
大尉を瞬殺するなんて面白いことをやってくれるなんてね!
それにどんなマジックか知らないけど、相手には私達の位置が丸わかりかもしれない! 全周警戒を怠るな!!」
「「「了解!!!」」」
水月は嫌な汗が止まらない・・・UNKNOWN1機にあの大尉と風間がなすすべも無くやられた・・・
いまだ私達はそのUNKNOWNの位置も特定できていなければ、相手が何機潜んでいるかも見当が付いていない・・・・
しかも制限時間内に相手を確保もしくは殲滅できなければ、私達の負けとは・・・・
―― たが、どういうこと? それほどの実力があれば風間機を倒した後、体制が整わない宗像と柏木もやれたはず!
私達を舐めてるのか!?
「速瀬中尉、UNKNOWNが現れました!!」
「くっ、気を付けなさい茜。何の迷いも無く突っ込んでくるとは相当の自信家のようね!!」
応戦する生き残ったA-01A。
だが、彼女達は
結局UNKNOWNに傷1つを付けることなく敗れ去った。
―――― ブリーフィングルーム
「今回はさすがに呆れたわ・・・・・・白銀が苦戦するかもって考えてた私が馬鹿みたいね」
A−01A部隊と霞がいるブリーフィングルームに入ってきた白銀に、夕呼はそう言った。
「夕呼先生が用意してくれた改良型XM3と俺の相性が思いのほか良かったんですよ」
そう答える武。
だが、その表情は暗い。
「そう。むしろ問題なのはあなた達のほうよね、伊隅。先にA−01Bが帝国の斯衛に勝ってなければ、とんだ茶番になってたわ」
「申し訳ありません、博士・・・・」
伊隅みちる
は夕呼をジッと見つめ返しており
速瀬水月は視線を下に、拳をぎゅっと握り締め肩を震わせていた。
宗像美冴は不審そうな目を武に向けていて
風間梼子はただ申し訳なさそうに下を見る。
涼宮茜はそれほどまでに悔しいのか、ポロポロと静かに泣いていた。
柏木晴子だけがただ一人、興味深げな視線で白銀をニコニコと見ているのだった。
――
柏木はともかく、他の隊員の俺に対する印象は最悪な感じだなぁ・・・・
武は内心、ため息がでる。
守りたいと感じていた人間に嫌われるのは、やはり良い気分でない。
「香月副司令、あまり彼女達を責めないでくれ。
検出されているデータを見る限り、決してA-01AはA-01Bより劣っているということは無い。
むしろそれだけ白銀武が異常だということだ」
そう言って現れたのは月詠真那である。
その胸には少佐の階級証が付けられており、そのことに武は少なからず驚いたが、裏で色々と動いてくれていることが察せられた。
「あら、月詠少佐。そちらの話し合いはもう済んだのかしら?」
「殿下は国連軍の助力を歓迎すると仰られた」
「わかったわ、奥で話を詰めましょ。白銀と霞は今日はもういいわ、伊隅
後はお願いね」
そういって月詠と夕呼は出て行き、武も逃げるように部屋を後にした。
武はシャワーを浴び、PXで夕食をとる。
模擬戦でのことが思い出されてやはり気分がさえない。
伊隅大尉、風間少尉を倒した後、違和感に気付いた武はヴァルキリーズから距離をとった。
そのことを水月などは、こちらに対する余裕の態度と解釈したが、武にとってはそうではなかった。
あまりにアッサリすぎると武は感じたのだ。
自分の知る伊隅たちなら
この程度の奇襲にはすぐに対処するはずだ。
出会うのが1ヶ月半も前倒しになっていることや、
3度の実戦である『BETA捕獲作戦、クーデター事件、トライアル事件』を抜きにすると
こうも実力に差が出るのだろうか?
明らかに『2回目の世界』の伊隅ヴァルキリーズよりこのA-01は脆いのだ。
今の彼女達なら、夕呼先生の新型XM3が無くてもおそらくは勝っているだろう。
自分が3回目と信じている世界は本当にループを繰り返しているだけでは無いのではないか?
前の世界よりも
みちる達が弱いとすれば、何か対策をとらなければ前回では思いもしなかった所で死者がでる・・・・
それが武の表情を暗くしている一番の原因だった。
「白銀中尉!この席いいかしら?」
武が振り向くと、隣に現れたのは柏木晴子であった。
「柏木か、別に構わないぞ」
「あら、キチッと紹介もしてないのに名前を覚えてくれてるなんて、中尉は噂どおりの人なのかしら?」
「噂?言っておくが俺は訓練兵には手なんて出してないからな」
「あはは、まぁ私はどっちでもいいんだけど、うちの隊員には優柔不断な男に苦労させられた人が多いからね」
―― 伊隅大尉と速瀬中尉、まだあって無いけど涼宮中尉だな・・・・はぁー、俺の印象って今回最悪だなぁ〜。
「今日の中尉って暗いなぁ〜。もっと明るい人って聞いてたけど噂ってやっぱりあてにならないわ」
「柏木は無駄に明るいぞ。ブリーフィングの時もニコニコしすぎだ」
「いやー、みんなは中尉に勝つ気でいたからショックなんだろうけど、
私は目の前で、白銀中尉が風間少尉を倒すのを見てたから・・・・・・こりゃ勝てないってね」
相変わらず状況判断が正確だなと感心する武。
「なるほど、柏木が最後まで無駄に戦闘を長引かす戦い方をしてたのは俺の手数を見るためか?」
「あははは・・ご明察〜。最もそのことをさっき速瀬中尉に怒られたんだけどね」
そして晴子は急に真面目な顔をする。
「でさ、中尉は私達の戦い方をどう思った?」
「ん?
さすがは
夕呼先生直属の特殊部隊と思ったよ。横浜基地で最強だろうな」
しかし、この答えに納得しない表情をする晴子。
「そうじゃなくてね・・・・白銀中尉が関わる特殊任務に私達が付いていって、何回くらいの作戦まで生き残れるかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「中尉はさ、このままだとA-01Aはすぐに全滅するって思ったんじゃないのかな?
たからブリーフィングルームに現れた時、暗かったんじゃないの?」
柏木にはリーディング能力があるんじゃないかと武は疑いたくなる。
そして思う。 黙っていることは決して彼女達のためにはならないと。
「3回だ・・・今のままじゃ3回目の作戦でヴァルキリーズは全滅だよ」
「・・・・・・結構シビアな数字だね・・・・・」
晴子もさすがにこの答えにはショックを受けていた。
―― だが、これが現実なんだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・あのさ、白銀中尉・・・あたしの訓練見てもらえないかな?
その、あたしはまだ死にたくないから・・・」
それもそうだと思う武。 弱いのであれば強くすれば良いだけなのだ。
こんな簡単なことも思いつかないで沈んでたとは
最近色々あって疲れているんだなぁ〜と しみじみ感じる。
「構わないぞ、柏木。 可能な限り鍛えてやってもいいけど、一つ条件がある」
それを聞いた晴子はハッとして武の顔を見る。
なんだか心なしか晴子の顔は赤い。
「俺のことは中尉と呼ぶな、それだけだ。 白銀でも、武でも同い年なんだから好きに呼べばいい。
あと敬語は・・初めから使ってないよなぁ、おまえ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・何か不服か?」
ガッカリした表情を見せている晴子に尋ねる武。
「いや〜、噂どおりの人なら俺の愛人になれとか言うのかと思ったのよ〜〜」
「あ、あほかっ!!
そんなこと言う訳ないだろ!!!」
まったくもって
周りからそんな目で見られていることに 武はウンザリする。
「じゃあさ、あたしはタケルって呼ぶから、あたしのことも晴子か、ハルって呼んでね〜」
「了解、じゃあハル、よろしくな」
それから2人はシミュレータールームに向かい、考え方や手本を見せてやることで晴子を指導した。
武が自分の部屋に戻るとなぜかベッドの上に水月が裸のまま酒に酔って寝ていた・・・・
「シロガネ〜〜〜〜〜しょう〜〜ぶぅ〜らぁ〜〜〜」
「・・・・・・まったく・・・この人は何考えてんだ・・・・・」
おおかた、今日の模擬戦のことを忘れるために酒でも飲んだのだろう・・・
酒癖が悪いのは知っていたが、これはないだろう、と
ため息をつく武。
裸の水月にシーツをかけてやると、武はB19Fにある仮眠室で寝ることにした。