2001年10月31日











 朝の点呼を終えて、武が自分の部屋に戻ると扉の前に冥夜が立っていた。

「冥夜、おはよう〜。 朝からどうしたんだ?」
「ああ武、おはよう・・・・いや・・・榊たちがな、最近 夜に武が部屋に戻ってないと言っていたものだから 少し気になってな・・・」

 冥夜は、何やら歯切れが悪い。

「ああ、そのことか。 最近は夕呼先生の特殊任務の関係で、ずっとB19Fにある仮眠室に寝泊りをしてるんだ」
「・・・・なんだそうであったか・・・・ふむ、要らぬ邪推をしてしまったようだ、許せ」
「――? まぁ朝の点呼が終わったら一緒にPXで飯を食おうぜ」
「ああ、わかった」



  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 最初に違和感に気付いたのは武であった。

 どうもみんなから見られている気がする。
 純夏のことがあって自分は少し神経質になり過ぎていると思っていたがどうやらそうではないようだ。
 その視線には、好奇と羨望、多少の疑いが含まれている。

「なぁ冥夜・・・俺たち何か注目を浴びてないか?」
「ふむ・・・そなたもそう思うか・・・・・今日のPXの雰囲気は何やらよそよそしいな」



「なんかあったのかなぁ・・・・お、委員長、たま、おはよう〜」
「「おはようございます、白銀中尉」」

 冥夜も挨拶をし終えたところで、ようやく武は違和感の正体がわかった。

――これは仕方の無いことなのかなぁ・・・・



「なぁ、委員長。 俺のことはいつものように白銀でいいんだぜ?」

「そのお言葉は嬉しいのですが、そういう訳にも参りません。
  中尉という階級に、一介の訓練兵がタメ口をきいたとあっては周りに示しがつきません」


「今まではタメ口だったじゃないか」
「う・・・しかし、中尉がこの横浜基地一の衛士ともなれば話は違ってきます。 中尉も周りの視線をご存知でしょう?」
「白銀中尉には皆さん、期待をしてるんです。 期待に沿う態度を示すべきだと思います」


 やはりそういうことなのだ・・・・
 先日の不知火1機で、武御雷4機を倒したことが基地内に広まったのであろう。
 それが違和感を作る正体であった。

――軍では階級の差は絶対だ・・・・


 委員長達にタメ口を無理強いしては、彼女達への風当たりが悪くなるだけなのかもしれない。
 俺のすべきことは、委員長たちを守ることであって友達になることじゃない。
 訓練兵と中尉では遠からずこうなることは解っていたはずだ・・・・

 そう武は自分に言い聞かせる。


「わかった、榊、珠瀬。 俺への言葉遣いはお前達の好きにすればいい」
「「はい、中尉 ありがとうございます」」


 普段であれば、そこで話は終わるはずであった・・・


「榊、珠瀬。 そなた達はそれでよいのか!!」
「み、御剣。 どうしたのよ・・・・・ あなたらしくないわね、良いも悪いも無いじゃない・・・・」
「そ、そうですよ御剣さん・・・ し、白銀中尉は中尉なんですから・・・」


 冥夜には我慢ならなかった。

 武がどんな気持ちで『敬語はやめろ』とか『中尉はよしてくれ』と言ったのかが、わかったから。
 彼が時折見せる寂しげな表情を、その苦悩の訳を知ってしまったから。
 私達がすべきことは、タケルに配慮をすることでも 壁を作ることでもない。

 彼が抱える虚無を少しでも取り払ってやることだ。
 私達のことで心を少しでも痛めないようにすることだ。
 彼が背負っているモノを一緒に背負うことだ。


「冥夜、少し落ち着くんだ・・・・」
「しかし武・・・・」


 だが冥夜もPXにいる人たちがこちらに注目していることに気付いた。

「すまない・・・榊。 どうやら私は少し疲れているようだ・・・大人気なかった・・・」
「え、ええわかればいいのよ、御剣・・・」

 しかし、その後の朝食では、結局気まずい空気が払拭されることは無かった・・・






  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 千鶴は思う。

 私は何も間違ってなんか無い・・・・
 だが、そう自分に言い聞かせるたびに心がモヤモヤする。 落ち着かない。


 白銀はあれほどの実力と能力がある。 香月副司令という後ろ盾もある。
 遠くない将来、必ず国連の中でも重要な地位に上りつめるであろうことは明白だ。

 そんな人が、訓練兵に呼び捨てにされているようでは白銀のためにはならない・・・・
 昨日、今日で早くも私達と白銀の関係を邪推する人が出てきている。

 207分隊の連中は何人中尉に落とされたのかと聞いてくる馬鹿もいた。

 私のことは構わない・・・だが、他の仲間や白銀のことを悪く言われるのは我慢ならなかった・・・

 だから私は、そんな噂を払拭するためにも白銀を中尉と呼び、再び敬語で話そうと決めたのだ。
 珠瀬は賛成してくれた。
 反発すると思っていた彩峰でさえ、相談したら乗ってきてくれた・・・

 だが事前に話していなかったとはいえ賛同してくれるだろうと思っていた御剣が、あぁも怒りを露わにするとは予想外だった・・・
 普段の御剣なら「仕方あるまい」と乗ってくるはずだ。



 たぶん、私はどこかで間違えてしまったのだ・・・・
 そうでなければ、あれほど御剣が怒ることは無かったはずだ。
 白銀が『好きにすればいい』と言った時に見せた、虚無に満ちた瞳を見ることは無かったはずだ・・・・・・

 初めてあった時から何年も前からの親友のように語り掛けてくる白銀・・・だから なんだか自分もそんな感じで接してきた・・・・
 だがここに来て、私は白銀のことを何も知らないのだと気づく。
 御剣は白銀のことを何か知っているのだろうか?

 また、心がモヤモヤする・・・・・
 機会をつくって一度御剣と話そうと思う千鶴であった。





―――― 横浜基地  病院前


 武は病院に来ていた。
 00ユニットが再起動するにはいま少し時間がかかるらしく、手伝えることが無かったからだ。
 それに今日の横浜基地はどうにも居心地が悪い。
 衛士たちに奇異の視線で見られることはあまり気にしては無かったが、
 207B分隊の空気が最悪で 特に冥夜がツンツンしており自分がいると余計にこじれそうであった。

 だから、冥夜とは夜に話をする約束をした後は美琴への見舞いと称して基地を抜け出してきたのであった。




「あいつ、何見てんだ?」
 病室に居なかった美琴を探していると、待合室でテレビを見入っているのを発見した。


 なに 教育番組なんかを一生懸命見てんだ?
 む・・・もしかして、あれが噂のチョップ君か!!
 1回目の世界で委員長が人形を作ってくれていたが・・・・・似て無いぞ・・・マジで・・・
 それになんて優柔不断でダメダメなんだ・・・・・確かにこれに似ているといわれるのはマジ、ショックだ。
 あいつら、いったいどんな目で俺を見てたんだ?
 ・・・・・それにしてもチョップ君のボケに対してツッコミのチョップを入れているお姉さんは、なんか委員長に似ているなぁ

 そんなことを考えていると気が付けば テレビは終わっており、美琴の姿も消えていた。




「――ったく・・・どこだよ・・・・入院患者なんだから、おとなしくしてろっての・・・っと居た!!」


 美琴は入院服のまま枯れ木によじ登り、そこに引っかかっているボールを下で待っている子供達のために取ろうとしていた。
 さすがはサバイバルの達人。 難なくボールを取って見せて子供達に返してみせる。

 そして木から降りてくると思っていたら、その幹の上でそのまま考え事をしているようであった。


――あいつが悩んでいるところを見るのは珍しいな

 だが、このままでは埒が明かないので武は声をかけることにする。




「おーい・・・そんなとこで寝てると怪我をするぞ〜」
「えっ!!わ、あわわわわ・・・・」

 ビックリした美琴は体勢を崩し、幹の上から落下する。
 もちろん、下にいた武は美琴を抱きとめてやった。




    
 


「あ、ありがとうございます・・・」
  そう言って顔を赤くする美琴。


「うむ、まだ入院中なんだから気を付けるんだぞ。 鎧衣美琴訓練兵」
「え・・・・君は・・・・」
「俺は、白銀武だ。 今は神宮寺教官の補佐なんかを時々やっている」

「あ・・わっ・・し、失礼しました。 白銀中尉」
  そう言って武から飛び降りる美琴。



「ん・・・・俺のことを知ってるのか?」
「あ、はい。 え〜と珠瀬訓練兵から凄い人がやってきたと聞いてました、中尉」

「あー、一応言っとくが、中尉とか敬語とかはやめてくれ・・・俺はそういう堅苦しいのが嫌なんだ・・・
 俺はお前のことを美琴と呼ぶから、美琴は俺のことを好きに呼んだらいい」


「・・あははは・・・本当に壬姫さんの言うとおりの人だねー・・・じゃあね、僕もタケルって呼ばせてもらうよ」

「それで、何か悩み事か?みんなの話では美琴は楽天的で人の話をもっぱら聞かないマイペースな奴と聞いていたんだが」

「うううう・・・ひどいよ〜・・・僕の知らないとこでタケルにそんなことを言うなんて・・・・
  でもね、別に悩み事なんてないかなぁ。 ただ、病院にいても暇だから色々と考えちゃうんだ」

「たとえば、自分が実は男なんじゃないかとかか?」
「ひどいよ〜タケルは〜・・・これでもちゃんとした女の子なんだぞ!」

  そういってペタンコの胸を張る美琴。

「でも・・・タケルにだったら・・いいかな・・・胸をさわらせてあげても・・・」
「ちょっと待て、美琴。 俺はそんな話はしてない」


―― まったく・・相変わらず会話が読めない・・・・ そもそも初対面な俺になんてことを言うんだ・・・


「あははは・・・変なタケルー。 赤くなってカワイイかも」
「くっ・・・美琴にカワイイなんて言われるとは、思いもしなかったぜ・・・」

「でも不思議だよね。 なんだかタケルとは初対面な気がしないんだ・・・」
「え・・・!!」


 まさか・・・美琴にも虚数空間からの記憶が流れ込んでいるのか!?


「前世で恋人だったかも・・・・」

 ・・・・・美琴にそんなことを期待するだけ無駄ってことはわかっていたはずじゃねーか。 はぁ〜〜・・・

「うう・・タケルには『恋人』ってところで反応して欲しいんだけどなぁ〜」
「俺は前世なんて信じてないからな。 でも平行世界ってやつは信じてるぞ」
「エヴェレットの多世界解釈?」

「そうだ。 まぁ平行世界の一つに美琴と俺が恋人の世界があってもいいんじゃねーか?」

「へー、タケルって結構ロマンチストだね」


 その瞬間、武の中で 『1回目の世界』 で美琴が恋人であったループの記憶がフラッシュバックに展開される。
 ドックン・・ドックン・・・ドックン・・・ドックン・・・

―― 美・・・琴・・

「や、やだなぁ〜タケル・・・そんなに見つめられると恥かしいよ」
「あ・・わりぃー美琴・・・」

「それでタケルは、何で病院なんかに来たの?」
「ああ、美琴の見舞いに来ただけなんだ。 どうせ入院してて暇なんかじゃないかと思ってな」
「タケルって暇なの?」
「そ、そんなことは無いぞ。 これでも香月博士の直属だし」
「そっか、お見舞いありがとうねタケル」

 それからしばらくの間、武は美琴と話をする。


――どこの世界でも美琴は美琴だよなぁ〜

 気を遣う必要も無く気軽に話ができるのはありがたかった。


「僕は、明日には横浜基地に戻れると思うから」
「そうだな。 お前が帰ってきたら、総技演習に入ると思うから覚悟しとけよ」
「あははは・・・了解であります、中・尉・殿!」
  そう おどけて見せた美琴は最後にこう言った。


「そういえばさ、武には今、恋人がいるの?」

「え・・・・恋人か?」

―― 00ユニットの純夏が再起動したらどういう状態なのかは、見当も付かないし・・・こっちの純夏だってまだ接点もないしなぁ・・・

「好きな奴はいるけどさ、正直相手がどう思っているのかは、わかんねーんだわ」

「へー、まだチャンスはあるんだ〜、じゃあまたね、タケル〜」
  そういって美琴は病院へ戻っていった・・・



 ドックン・・ドックン・・・ドックン・・・ドックン・・・ドックン・・ドックン・・・・・


―― あーーーっ、何を考えてんだ! 俺には純夏しかいないはずだろ!!



気晴らしに美琴に会いにきたはずであったが、重い足取りで横浜基地へと帰る武であった。







―――― 横浜基地 グラウンド 夜


「今朝は、すまなかった・・・」
  そう切り出してきたのは冥夜であった。

「俺は特に気にしちゃいないが、委員長達とはうまくいったのか?」

「表面上だけは、と言ったところだ・・・・
  なぁ武、私が言うのもなんだが、榊たちにも そなたが抱える秘密を話してやってはどうだろうか?」

「まぁ、いつかは話そうとは決めてるが、それは今ではないよ 冥夜。
  明日には美琴が帰ってくるし、その次は総技演習が待ってるだろ?余計なことに気を回させたくないんだ」


「武がそういうのであれば従おう。 榊たちは随分と武のことを気にして私に聞いてくるのだが、
  私が話したところで、とても信じられる話ではないのでな。 それにそなたが話すのが筋というもの・・・」

「冥夜にも気を遣わせちまって、すまねぇ」
「何、気にするでない。 で、今日はどんな話をきかせてくれるのだ?」


「そうだな、今日は俺がこっちの世界に来た理由と純夏との関係を冥夜に話すよ」

 そう切り出すと、冥夜は少し緊張した面持ちで頷いた。


「『元の世界』の純夏のことは、前に話した通りだ。
  それでこっちの世界の純夏は、やっぱり元の世界と同じようにこっちの世界の白銀武と知り合いだったらしい」

「そなたは、こっちの武はBETAに捕まって、恋人を助けるために素手で立ち向かって死んでしまったといっていたな。
  その恋人というのは鑑のことであるのか?」

「ああ、純夏のことだ・・・・その時、純夏を含めて何人もの人間がBETAの捕虜になっちまったんだ・・・・」
「なっ・・・BETAが人間を捕虜だと!?そんな話・・聞いたことが無いぞ!!・・・いや・・・取り乱してすまない・・・
  これも機密なのであるのだな・・・」

 先日、武が今の純夏は会わせられる状態ではないといった言葉が冥夜には思い出された・・・
 その意味に身震いが生じる。

「明星作戦の時にハイヴ内で発見された捕虜でたった一人、生き残っていたのが純夏なんだ・・・
  あいつらは、BETAは・・・純夏を少しずつ壊していき、発見されたときには純夏は脳と脊髄しか残ってなかったんだ・・・・
  ・・・クッ・・・・チクショウっーーーー・・・・」



 冥夜の視界がぐにゃりと歪む。
 BETAという異質さをわかったいたはずだが、そのおぞましさに戦慄が走る。
 だか、私の今なすべきことはBETAを憎むことや恐れることではない。 鑑を哀れむ事ではない。
 今、目の前で苦しんでいる男を支えてやることだ・・・そう言い聞かせて心を強くする。

 プロジェクションを受けた時の内容を思い出し、憎悪で染まる武を後ろから抱きしめる冥夜。


「私は鑑のことが知りたい・・・続きを話してはくれないか?」

 そこでようやく自分を取り戻すことが武にはできた。
 そして、冥夜は武から離れ言葉を待つ。


「純夏はそんな姿にされてもずっと殺された白銀武に会いたかった。 通信機としての反応炉、次元を歪めた2発のG弾
  そういう要素が複雑に絡み合ってさ、元いた世界の純夏とこっちの純夏の思いを繋げたらしいんだ・・・
  元いた世界の純夏と白銀武と結ばれなかった世界での思いが俺って存在を作ったらしいんだけど」


「む・・・言ってる意味がよくわからんな・・・」


「いや、俺も言ってて、よくわかんね――んだわ・・・・ははは・・・はぁ〜・・・
  とにかく純夏の想いによって俺って存在が作られたわけなんだ。
  先生の話では、『因果導体』 って存在らしいんだけど、これもよくわからん。
  だからこっちの純夏の想いが叶わなかった世界は、俺が死ぬと同時に2001年10月22日から再構成されてるって感じなんだ」


「鑑の想いというのは?」

 顔を赤くして目をそらす武。


「あぁーー。 えぇーっとだな・・・俺と純夏とが結ばれることらしいんだわ・・・
  純夏と結ばれない限り、因果導体から解放されないみたいなんだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 武にはなんとなく、大気の温度が下がった気がした。


「1回目の世界ってのはさ、脳みその純夏に俺が気付いてやれない世界。
  冥夜や千鶴、慧や美琴、壬姫と世界の終わりを迎えた世界・・・・
  2回目の世界ってのは、オルタネイティブ4を通して、純夏が00ユニットとして生き返る世界なんだ」

「鑑は元に戻るのであるか!?」
「ああ、ただ00ユニットってのはアンドロイドみたいなもんで・・・生物的には純夏は死んでしまうことになるんだ・・・」


「チョッと待て武・・・今の話ではオルタネイティブ4を完成させることとは、鑑を殺すことになるのではないのか?」
「結果的には、『2回目の世界』ではそうなっちまった・・・知らなかったとはいえ俺は純夏を殺すことを手伝ってしまってる」


 淡々と語る武ではあるが、その目には生気が感じられない。

「誰かが、00ユニットにならなければ、オルタネイティブ4か完成しないんだ・・・・仕方ないさ」

 だが、それが鑑である必要はあったのか・・・ それを武に背負わせる必要はあったのか・・・ 冥夜はそう思わずにはいられない。
 そして、その世界の私は何も知らずに武に頼っていたのであろうと思うと胸が苦しくなった。

「まぁ、00ユニットの純夏のおかげで佐渡島ハイヴとオリジナルハイヴを攻略できるってわけだ。
  00ユニットって形ではあったけど、純夏と結ばれて俺も因果導体から解放されたし、その世界も救われたから良しとするさ」

「そなたがそのような状況とは知らなかったとはいえ、
  その 『2回目の世界』 でも私達はそなたに色々な気苦労させたのであろうなぁ・・・」

「そんなことはないさ、1回目の時に冥夜たちには随分苦労をかけたのは俺のほうだしさ・・・
  『2回目の世界』 でも冥夜たちがいてくれなければ、オリジナルハイヴの攻略はできなかったさ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「オリジナルハイヴの攻略の時にさ、207B分隊は俺を残して全滅してるんだ・・・・」

「――――!! ・・・そう・・・で・・あったか・・・・」

 今にして思えば、初めて会った時の武の苦悩の表情には そういう意味があったのだ。
 そして、そんな武に対し、なぜか強い親近感を抱いたのは偶然ではないのかもしれない。


「だからさ、冥夜。 この世界ではみんなが生き残れるように俺は頑張るつもりだ・・・・ だから協力して欲しい」
「何を言う、いまさら・・・私はもとよりそのつもりだ・・・・それより武、今回も鑑が00ユニットというものになるのか?」

「ああ、その件なら昨日片付いた。 夕呼先生の実験のおかげで、『2回目の世界』から00ユニットを持ってくることができたんだ・・・」
「・・・・香月博士というのは・・・ いやまったく・・・ 凄いものだな・・・・ そのようなこともできるのか」

「それで、『2回目の世界』から、純夏を人間に戻せる技術も持って帰ってきたから、純夏のことはもう安心していい」
「そうか・・・うむ。 それは良い知らせであるな」

 ここで冥夜に純夏が2人になりそうだといっても混乱させるだけなので、これ以上は今は言う必要が無いと思う武であった。

「もう、こんな時間か・・・・当面は冥夜も総技演習に集中してくれ」

「わかった。 では、またな タケル」


 そう言って2人はグラウンドを後にした。


 



→次へ