2001年10月25日













 午前は戦術機の新OSのデバッグを手伝い、
 午後は207訓練小隊の実習に白銀 武は参加する。


「ねぇ、白銀・・・あなた御剣と何かあったの?」

 グラウンドの隅で、小休止をとっている武に、委員長がそう話しかけてきた。

「そうか?」
「そうか? じゃないでしょ・・・ 今日の御剣は、あなたのことをチラチラと意識して実習に集中できてないじゃない。」

―― うーん、こればっかりはなぁ・・・

「ちょっと原因がわかんねぇや・・・まぁ話をしてみるさ」
「そうしてちょうだい、まったく特別教官が隊の士気を落とすようなことはするんじゃないわよ・・・」

「ははは・・・わかったよ・・・」

 そういって周囲に気を配りながら冥夜に近づく武。

「・・・・少しは実習に集中しろよ・・・ 委員長たちが心配しているじゃねぇーか・・・」
「・・・・・・・・・」

「やれやれ、もしかして月詠さんに俺が『死人』であることでも聞いたのか?」
「――くっ・・・・ どうやら自分が不自然な人間だと自覚はあるようだな・・・・・・」

「ふぅーっ・・・・ それも含めて今夜に話すから、今は目の前のことをやるんだ・・・お前はこの隊の副隊長だろ?
  とても 責任があるものの態度とはいえないぜ」

「・・・・・そうであるな・・・・ こうも無防備に話しかけられては、警戒している私が滑稽ではないか・・・・
  まったく、夜にどんな話が飛び出してくるのか、楽しみになってきたぞ・・・」

 そう言って体の力を抜き 冥夜は 不敵に笑うのであった。





―――― 夜、グラウンド



 武がグラウンドに顔を出すと、冥夜と月詠はすでに待っていた。


「やぁ、こんばんわ、冥夜、月詠さん・・・」
「「・・・・・・・・・・・・」」

―― ううっ・・・・無視っすか・・・はぁ・・・・本当にうまく行くのかなぁ〜

 早くも不安になる武。

「とりあえず、月詠さん。おそらく屋上にいる戎たちにライフルを向けさせてるのはやめて貰えませんか。
  さっきから生きた心地がしないんです・・・」

「―――― くっ!」

 なぜわかったと言った感じで武の睨む月詠。

「月詠、そのようなことを・・・・」
  驚く冥夜。

「あと録音機や盗聴機も外してくださいよ・・・ これから話すことは、おいそれと口外していいことじゃあないんでね。
  それでも冥夜に話すというのは、まだ理由は話せませんが、俺は冥夜という人間を信用しているからなんですよ。
  そして、冥夜がもっとも信頼している月詠さんだからこそ立ち会ってもらおうと思ったんです・・・
  俺が言うのもなんですが、冥夜を裏切るようなマネはしないでください。」

「・・・・貴様のような男からそのような言葉を言われるとはな・・・・神代、巴、戎、お前達は撤収しろ」
  そう言って、月詠は服の中から小さな送信機を取り出し、手で握りつぶして粉々にする。

「それにしても貴様・・・ 冥夜様に向かってそのような口の聞き方を・・・」
「よい月詠。それは私が許している」

「わかりました、冥夜様・・・・・・」

「じゃあ、2人ともこっちに来てください」
  そういって武は月詠たちをあの丘へと案内する。



「まず、これを見てください」
  そういって武はゲームガイを月詠たちに渡した。

「・・・・プレアディスか?・・・いやこれは違うな・・・・」

 武に警戒しつつもゲームガイをいじる2人。

「お、音がでたぞ・・・それになんだ、この綺麗な液晶は・・・・米国製か?いや、画面には日本語が・・・・MADE IN JAPANだとっ!!
  一体何なのだ、この機械は!・・・それにこのようなものをお前がなぜ持っている!!!」

「それは、俺のゲーム機だからですよ」

「げーむき? 武・・・ゲームとは、おはじきや あやとりのことか? ゲームをする機械?」
「我らを侮辱する気か白銀! この世界にゲームにこれほどの技術を使う余裕などあるはずが無い!!」

「そうですね、その通りです。『この世界』にそんな余裕が無いことは月詠さんや冥夜よりも、俺が一番わかってますよ」


 そのときの武の悲壮感に満ちた顔は2人を沈黙させるには十分であった・・・

「そのゲーム機は『この世界』のものでは無いんです」
「「――――??」」

「そして、この俺も 『この世界』 の人間ではありません」
「な、なにを馬鹿なことを言っているのだ、武・・・」

「冥夜も月詠さんも、この世界の白銀武が99年に死亡をしているのを知っていますよね。
  俺の死をどうやって確認したかは知りませんがあれは事実ですよ・・・
  BETAに捕まって、恋人を助けるために素手で立ち向かって、バラバラにされたんです」

「・・・・・その馬鹿げた話を信じろと?」

「まぁ俺が、擬似生体やよく似た他人の方がよっぽど信憑性がありますけどね・・・
  とりあえず、俺自身のことを 話すんで聞いてください。
  俺が元いた世界ってのは、BETAなんて化け物もいなくて人間同士の争いはあっても、
 まぁこの世界に比べれば平和といっていい世界でした・・・
  その世界から、ある日突然このBETAのいる世界に飛ばされてきたんです。
  日付は2001年10月22日」

「3日前か・・・」

「まぁ、いきなりそんなことがあったものだから混乱したりするんですけど
  香月博士に保護されて207B訓練小隊に訓練兵として入隊するんですよ」

「チョッと待て武・・・ お前は一体何を話しているんだ? 今のお前は中尉ではないか・・・」

「まぁ 落ち着けよ、冥夜。だから今は『この世界』の話をしているんじゃない。」

「「――――?」」

「その世界で俺は委員長や冥夜、たま、彩峰、美琴と一緒に衛士を目指して日々の生活を生きていくんですが
  2001年12月24日にこの横浜基地で進められていた日本主導のオルタネィティヴ4が事実上何の成果を上げられないまま終了し
  米国主導のオルタネィティヴ5が発動するんです」

「「・・・・・・・・」」

 何のことかはわからない冥夜、一方の月詠は何か思い当たることでもあるのか深く考え込んでいる・・・

「第五計画は、衛星軌道上でいま建造している、惑星間航行船で2003年までに人類約10万人を他の星に逃がし、
  残った人類はG弾を運用した『バビロン計画』で、BETAに最終決戦を挑むことになるんですけど
  決戦も半ばでBETAにG弾対策をとられたりして、結局 決めてを欠いたまま人類は追い込まれていったんです。
  俺もその世界で死んだはずなんだけど、気付くとまた2001年10月22日にループしてきてたという訳なんだ・・・・」

「・・・・それが今の武というわけか?」

「いや違う。まだ話は終わってない。次の世界で人類の終末を知っている俺は
  どうにかして オルタネィティヴ4を完成させようと、夕呼先生に協力して何とかそれを完成させるんだ。

  そのおかげで甲21号目標と、オリジナルハイヴの 『あ号標的』 を叩くことはできたんだけど
  その時点で俺が世界をループしている原因を取り除いていたから

 『あの世界』 には いられなくなって、『元の世界』 へと帰る予定だったんだ・・・
  でも、気付いたら 『この世界』に来てたという訳なんだ。
  ちなみに、俺が冥夜と悠陽殿下のことやBETAの世界の俺の死因を知ったのは その『2回目の世界』 でのことなんだけどね・・・・」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」


「白銀・・・・ 正直、とても信じられる話ではない・・・・ だが、お前は本来国連の中尉などが知りえない情報を知っている。
  自分が危ない橋を渡っているという自覚はあるのだろうな? そうまでしてこんな馬鹿げた話をする目的はなんだ?」

「俺としては 後々月詠さんには協力してもらうためです。 今のままでは207B訓練小隊の任官は無理なんでね」

「・・・・・・・・・・・・」

 沈黙する月詠に対し、口を開く冥夜。

「それはどういうことだ武。 私達は衛士にはなれないということか?」

「そういうことさ。 冥夜はもとより榊首相の娘、彩峰中将の娘、珠瀬事務次官の娘、鎧衣課長の娘が
  一緒にいるのは偶然じゃあないってことさ」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」

「それに帝都には、現状の政府の将軍に対する在り方に反感を抱いて良からぬことを考えている奴らもいるようですから・・・」
「「 ――――――!!! 」」

「それは一体どういうことだ、白銀・・・・」
  武を睨みつける月詠。

「さぁ・・・今はまだ話せません・・・・ それに俺も今回の話で俺のことを信じてもらおうなんて思ってませんから・・・・
  なんなら月詠さんには、そのゲームガイを持って帰って貰ってもいいですよ。 少しは俺の話に信憑性がでると思いますから」

「ふん・・・では、ありがたく預からせてもらうが 壊してしまうかもしれないぞ」

 そう言って月詠は不敵に笑う。

「別にいいですよ。 まぁまた何かあればこちらから連絡しますよ」

 そして歩き出す武。
 気付けば冥夜が武の隣を歩いていた。

「月詠さんを放っておいていいのか?」


「うむ、問題あるまい・・・・・・ところでそなたに一つ確認したいのだが・・・ 昨日私に話した者とは・・・・あれは私のことであったのか?」



     



 冥夜はこちらをじっとこちらを見る。
 その澄んだ瞳に武は見とれてしまう。

「さ、さぁな・・・・」

 つい赤くなり武は顔をそらしてしまった。

「冥夜はさっきの話を信じたのかよ・・・」

「いや、正直どうであろうなぁ・・・・・・
  だが、私にもよくわからぬことなのだが・・・・ 『武という人間は信じられる』、そういうことだ」


 あんな話を信じてもらおうとは思ってはいなかった。
 下手をすれば、冥夜たちとの関係はこれまでと思っていた。
 だから、冥夜のその言葉は素直には信じられなかった・・・

 それでも冥夜の言葉は武の胸に響いたのだ。


 ただ、信じるといってくれる人がいる・・・・

 武には それが  たまらなく  うれしかった ・・・・・・





 

――――  B19F 純夏の脳と脊髄が入ったシリンダーのある部屋


「あら白銀、何か用?」

 武が部屋に入ると先客に夕呼と霞がいた。


「あ、いえ・・・純夏に会いに来たんですけど・・・ 今、お邪魔みたいですね・・・」
「あなた、毎日きてるの?」
「はぁ、そうですが・・・ 何か問題ありましたか?」

 少し考える夕呼。

「いや、特に問題ないわね。 どうやら私達のほうがお邪魔みたいだから・・・・じゃあね〜 白銀」

  何やら企んでいるような笑みを浮かべて霞を連れて立ち去った。

 武の経験上、ああいった夕呼はろくなことを考えていない・・・・
 やれやれと思いつつも、今日も純夏に語りかける。    


「今日、冥夜と月詠さんに俺のことを色々 話したよ・・・・
  月詠さんはともかく、冥夜はなんだか俺のことを信じてくれたみたいだよ。

 なんだか、どこの世界に行っても純夏と冥夜には かなわねーや
 あいつなら、絶対運命とか言い出すのかもしれねーけど、本当にそういうのがあるのかもしれねーな。

 それと新理論が手に入るのがあと4日後だ・・・
 それまでに何とか00ユニットに変わる案が出てくれば、お前が犠牲にならなくて済むんだけどな」




 夕呼に行動を変えさせるためには、夕呼の行動に対する対案を提示しなければならない。
 もしくは、夕呼の知らない情報を提示することで、夕呼からその行動に変わる案を引き出せればよい。
 だが、天才である夕呼以上に現在の状況を理解し、優れた案を提示できる人間など武は知らないのだ・・・・・・


―― こればっかりは月詠さんや冥夜では、夕呼先生を説得することはできないだろうな・・・
    夕呼先生以上でなくてもせめて同レベルの天才は誰かいないのかなぁ?

 そのとき電撃が走ったように武の中にある思いつきが閃いた。


「いや、いる・・・・夕呼先生に対抗できる人物がいるじゃねぇーーか!! 俺ってマジ、天才かも!!!
  純夏!! ちょっと俺、先生のところに行ってくるわぁーー!!」

 そう言って武は部屋を飛び出していった。





―――― 夕呼の執務室


「何よ、もう終わったの?」

「先生! 話があります!!」
「・・・うっとうしいから、その暑苦しい顔を近づけないで・・・・」

 深呼吸をして気持ちを落ち着ける武。

「時空転移するときに、紙や服は一緒に移動するじゃないですか・・・・
  それで考えたんですけど、人間も一緒に移動させることもできるんじゃぁないでしょうか?」

「まぁ原理的には可能だと思うわ・・・・」
  そう答える夕呼。

「でしたら、29日に行う時空転移の時に 先生も一緒に来てください!! 先生が天才なのはわかってますが、
  こっちの先生とあっちの先生が協力すれば、今現在抱えている00ユニットの問題点もすぐにでも解決できると思うんです!!!」

「・・・・・・あんたにしちゃあ面白い考えだけど、それは無理ね・・・・」
「な、何が問題なんですか・・・」

「いい白銀。 誰もがあんたみたいに時空転移ができるわけじゃないの。 あんたが『元の世界』や『2回目の世界』に移動できたのは、
  その世界を構成する因子をあんた自身が持っているからよ。
  そして、それを強い意志によって世界と世界の間にある虚数空間を渡ることができるの・・・・・・
  仮にあんたと一緒に私を時空転移させると両者の意志が干渉しあって双方とも別々の虚数空間に投げ出されるのがオチだわ・・・・
  まぁ、あたしが死んでれば干渉せずに輸送くらいはできるはずだけど・・・・んで、あたしを殺して持っていくわけ?」


「ま、まさか、そんなことしませんよ!! ・・・・ はぁ〜・・・ いい案だと思ったんだけどなぁ・・・・・」

 そして、武は純夏のいる部屋に戻っていった。



 武を見送った後、霞は夕呼に向かって話しかける。

「博士、白銀さんに注意するんじゃなかったのですか?」
「ああ、御剣達に色々ばらしてたこと? まぁ、さっきまでは そのつもりでいたんだけど気が変わったわ」
「――――?」

「あいつなら、私以上に よりよい未来を選択してくれるんじゃないかなって気がしてきたの。 少しくらい遊ばせて見るのも手でしょ?」


 そういって楽しそうに笑う夕呼であった・・・・




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