2001年10月24日















「いい、白銀、わかってると思うけど元の世界を強くイメージなさい」

 そう言って、時空移転装置のスイッチを入れてゆく夕呼。

「この資料を 『元の世界』 の夕呼先生に渡すんですよね?」
「そうよ、滞在時間は2時間ほどだから、それまでに必ず接触すること、いいわね」

 そして、夕呼は、最後のスイッチに手をかける。

 武の視界は奇妙な音と共に歪んで行き、 こうして、『3回目の世界』 から消え去った・・・・





 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






「・・・・ここは、どこだ?」

 武は、目の前の風景に唖然としていた。

 『2回目の世界』での転移実験の時と同様に、武が現れた場所は白稜柊にある 馴染み深いの木の下である。
 しかし、その眼下には荒れ果てた大地が広がっていた。


「あきらかに 『元の世界』 じゃないな・・・・  そんなはずがない。  ここはBETAのいる世界だよなぁ〜〜」

 時空転移装置を作ったつもりが、夕呼は瞬間移動装置でも作ったんじゃないかと考えて呆れてしまう。

 そこまで考えて、武はある可能性に思い当たった。
 『元の世界』 が自分の知らない間にBETAが出現し大地が蹂躙されてしまったのではないだろうか・・・・


「とにかく、ここにいてもしょうがない」

 武は夕呼に会うために走り出していた。




 学校の建物はすぐに見えてきたが、それはどう見ても横浜基地そのものだ。


 やはりここはBETAの居る世界だと、武は少し安心するが、また別の可能性に思い当たる。


―― まさか因果導体じゃあなくなって、時空転移も出来なくなったんじゃ・・・・・


 これには武は戦慄せざるを得ない。
 そうであれば決してOOユニットは完成することは無いのである・・・


「と、とにかく夕呼先生に連絡をとらないと・・・」
 
 そして、近くの検問所へと走り、夕呼先生に連絡をとってもらう。

 電話の取次ぎを待ちながら、ふと武は違和感に気が付いた。
 見たことの無い衛兵たちであり、その彼らの目は明らかに戸惑いが浮かんでいるのであった。


「し、白銀武、香月博士です」

 そういって電話を取り次ぐ衛兵。
 やはり何か違和感を拭いきれないまま、しかし夕呼に相談しなければと思い受話器を手にする武。

「――― ちょっと白銀、なんであんたがそこに居るのよ!!!」

「ゆ、夕呼先生落ち着いてください。 それを聞きたいのは俺のほうですよ・・・」
「まさか、本当に白銀とは・・・いいわ、そこで待ってなさい。 今すぐいくから!!」

  そう言って夕呼は電話を切るのであった。


「ひさしぶり、と言ったほうがいいのかしら白銀」
「どういうことですか先生。 さっき別れたばかりなんじゃあないんですか?」

 双方とも合点がいかず固まってしまう・・・ そしてため息をつきながら夕呼は話し出した。


「なんだか あなたまた面倒なことになってるようね・・・
  今はね、2003年10月22日よ。
  オルタネィティブ4が完成してオリジナルハイヴを叩いた世界っていうわけ。
  そんで、あんたはどんな平行世界からやってきたわけ?」

「へ、オルタネィティブ4が完成してオリジナルハイヴを叩いた世界? 2003年10月22日?
 俺が消えてから2年も経っている世界ってことですか?」

「どういうことよ? あんたは、やっぱりこの世界の白銀なの?」


「ええーっと、ですね・・・ なんだか複雑なんですが、2002年1月にこの世界から消えた後
  また2001年10月22日にループしてたんです・・・ 因果導体からは解放されてないみたいで
  とりあえず、またオルタネィティブ4を完成させるために時空転移装置で 『元の世界』 に時空移動をしたわけなんですが・・・」

 
 夕呼はじぃぃーーーっと武の顔をのぞき込む。

 武は異様な迫力に少し後ずさるが、暫くすると夕呼は視線を逸らし溜め息をついた。


「・・・なるほど、気付けばこっちの世界に引き寄せられてたって訳ね。 あんたもなかなか苦労が絶えないわね・・・・
  いいわ、白銀。 そういうことならオルタネィティブ4の理論はあたしが提供しましょう」


「ほ、本当ですか!!」
「もち よ。 あんたには随分世話になったからね。 これくらいさせなさいよ」

「よっしゃーーーー!!  先生ありがとうございます!!!
  これで今の世界も救われます!! いやーー、 一時はどうなるかと思いましたよ・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「どうしたんですか先生?浮かない顔して・・・・」

「よく聞きなさい白銀。 あんたは、あの時確かに因果導体では無くなってたわ・・・
  あなたは、またループしてると思ってるらしいけれど、おそらくそうじゃないわよ」

「え・・・・・・・?」
「あなたが望んだか、鑑が望んだのか、それとも第三の強い意志が介入したかは知らないけれど
  今度死んだらエンド、それで終わりなんだから気を付けなさいね」

「ま、まってください。 俺が因果導体でないとしたら・・・」

「そうね、因果の流入も流出も無いわ。 これが良いことか悪いことか分からないけれど
  例えば、この世界のように00ユニットが完成したからといって、この世界のように調律まで上手くいくという保障は無いわね」

「・・・それは、構いません。 他の世界の純夏を犠牲にするようなことは、やっぱり俺は認められませんでしたから・・・」

「そ、あいかわらず青臭い救世主なのね・・・」

「し、仕方ないじゃないですか。 今の先生と別れて主観時間では3日しか経ってないんですから・・・
  やっぱりみんなを失った後だと、誰かを救うために誰かを切り捨てるって考えに迷いがでるんですよ・・・」


「・・・・・まりも や御剣たちはやっぱり元気にしてるの?」
「あ、はい。 みんなは今のところ元気です」

「ふっ・・・・まぁいいわ、あんたがいる世界は私には関係の無い世界だしね、好きになさい。
  それに、あんたの青臭さがこの世界を救ったのも事実だしね。 ただし後悔だけはするんじゃないわよ、白銀」

「わかりました、先生」
「それじゃ、理論とか、その他もろもろは5日ほど時間をちょうだい」
「今日が2003年10月22日だとすると26日ぐらいですかね」
「そうね、そのくらいで・・・ まだ時間あるんでしょ、これからどうするの?」
「・・・あの、00ユニットはどうなりました、純夏は再起動できたんでしょうか?」

 首を振る夕呼、やはり反応炉が手に入らない限り、現在の人類の技術では00ユニットを維持するのは不可能だということだそうだ。

 その後、武は眠っている00ユニットである純夏に会い、そして霞に顔を見せる。

「――!! 本当に、白銀さんなんですね・・・」
「やぁ霞。 久しぶり・・・ って言うべきなのかな」
「うっ・・・うっ・・・・ 白銀・・・さん・・・」
「な、泣くなよ・・・ 霞・・・」

「もう二度と、会えないと思ってました・・・」
「そんな訳ないだろ・・・・ 言ったじゃないか 『またね』 って」
「はい・・・」

「それにしてもあれから2年ぶりか・・・ 背、伸びたよな? なんか大きくなった感じがする」
「はい・・・」

 それからいくつかの話をした後、帰る時間が来た。

「っと、また5日後にくるからまたな、霞」
「はい。 またね、です・・・白銀さん」

 そういって武は 『2回目の世界』 を後にした。




  ―――― 3回目の世界  2001年10月24日



 気が付くと武は、転移装置のそばに立っていた・・・

「お疲れ、首尾はどう?」
「夕呼先生・・・色々と今回は予定外のことが起きているようです」

「どういうこと? まさか新理論は手に入らないってふざけたことを言うんじゃないでしょうね・・・」
「話は後です。 まずは霞を休ませましょう」

 そういってフラフラしている霞を支えてやる武。

「わかったわ・・・」


 そして武は夕呼の部屋で今回の転移実験のことを話していった。

「なるほど、今回の転移ではあなたが居たっていう 『2回目の世界』 に飛んじゃったわけね」

「はい、『2回目の世界』 の転移実験では、純夏を強く思うことで移動していましたから・・・
  今回も同じことになるとばかり思ってました…」

「まぁいいわ、どの道 前の世界の私が理論を用意してくれるんでしょ? 問題ないじゃない」
「ただ00ユニットを完成させた後のデバックの作業がおそらく難航すると思います・・・」

「どういうこと?」
「・・・・・・・・・」

「答える気はないってこと? ま、大体予想は付くけどね。
  あなたが 『元の世界』 に転移できない以上、前回のようにそこから鑑純夏の因果を引き出すことは出来ないものね。
  もっともあんたにしてみれば、それを許す気はないんでしょうけれど・・・」


 やはり先生に自分が因果導体で無くなったことを話すべきかどうか悩む武・・・
 だが、純夏のことにおいては味方とはいえない以上、何でもぺらぺらと話すべきではないのだ。

「そういえば先生、00ユニットは必ずしも急いで完成させる必要は無いと思います」

「また おかしなことをいうわね? 今年のクリスマスにはオルタネィティブ5が発動するって言ったのはあなたじゃない」
「OOユニットは・・・ 諸刃の剣なんですよ・・・」

 その言葉に夕呼の顔は険しくなる。

「―――― 説明なさい」
「はい、OOユニットには常にODLの劣化が付きものなんですよね。
  そのODLは、反応炉に繋がった浄化装置を通さなければいけないじゃないですか」

「ええ、そうね」

「反応炉は、各ハイヴとオリジナルハイヴを繋ぐ通信機の役目も持ってます。
  そして、『2回目の世界』 では、OOユニットを通して人類の戦術、戦略情報が筒抜けになってました」

「―――― な、なんですって!!!」

「人類が前回、甲20号目標を放置して無理をしてまで急いでオリジナルハイヴを叩きに行った理由は
 純夏のODLが浄化できないことと共に このことが原因の一つです・・・」

「なるほど、もしML機関やG弾の対策をされてしまえば、人類はそれこそ何も出来なくなるものね・・・
  まったく・・・こんな情報が漏れたら、今すぐにでもオルタネィティブ4は取り潰しじゃない」

「出来れば、凄乃皇四型の完成に目処が立つくらいの時期に00ユニットが完成すればいいんですけど・・・」
「・・・・わかったわ、四型の方を優先して組み立てることにしましょう」

「あ、あと四型にG弾を持たせることは可能ですか? 前回オリジナルハイヴが叩けたのは、ほとんど奇跡でした。
  ML機関が安定しない以上、保険に乗せてほしいですね」

「ふふふ・・・」
「?」


「あんたの話を聞いてると、G弾信仰派とかXG−70派とかが争ってるのが馬鹿みたいだわ・・・」
「よりよい未来のためにすべきことをするだけですよ、先生」

「G弾のほうに関しては、ちょっと面倒ね・・・ スポンサーに知られたら色々動きにくくなるもの・・・・
  まぁ、なんとかそっちのほうもしてみるわ。 他には?」

「今のところはないですね・・・」
「そ、じゃあ しっかり休みなさい。 考えている以上に体は時空転移で疲れていると思うから」
「わかりました」

 そう言って武は部屋を後にした。









  ―――― シリンダールーム 





 武は一人、脳髄の入った容器の前に佇んでいた。



「なぁ純夏、俺なんだか不安なんだ・・・

 すでに『2回目の世界』と違うことが起こって『元の世界』に帰れないし、どうやら因果導体でなくなってるみたいなんだ。
 『2回目の世界』より 良い未来を切り開くってつもりでいたけど
 下手をすれば、オルタネィティブ4の完成すら危ういかもしれない状況だ。
 くっ・・・これが俺にとって最後の世界かもしれないっていうのに・・・・・・

 夕呼先生に協力していけば、またお前を犠牲にしなきゃならねぇ・・・・・・
 ・・・・おれは『2回目の世界』よりも弱くなってるのかもしれないな。
 今の人類の勝利のためと割り切ろうとしても、純夏を犠牲にすることを割り切れないでいる・・・

 前の世界・・・俺のことを好きだと言ってくれた冥夜を自分の手で殺してしまったんだぜ・・・
 もちろんあの状況じゃあ仕方ないって分かってる・・・分かっているけど・・・
 ・・・・うっ・・・・・っ・・・」




―― チクショウ・・・ 泣いたって何にもならないことぐらいとうに学んだはずなのにな・・・
    でも、伊隅大尉が『仲間を失わないために戦っている』っていってた訳が初めてわかったよ・・・
    今の俺はお前とあいつらのために『3回目の世界』へ来たんだと思うから・・・

    とにかく考えるんだ、シロガネタケル!どうすれば現状を打破できるかを!!!

    ・・・・・・・・・・・・・・・・

    夕呼先生には全面的には協力できない・・・
    先生とは利害が一部、一致していないからだ・・・
    しかし、俺のことがわかって、協力してくれるのも夕呼先生だけだ・・・

    だが凡人の俺だけでは、絶対に夕呼先生を言い負かすことなんてできないもんな・・・
    いつも結局はいいように丸め込まれるのがオチだ・・・

    信頼できる誰かに、俺が時間をループしていることを話してみるか?
    だか、失敗すれば、みんなや夕呼先生からの信頼を失っちまう・・・

    くっ・・・信頼がなんだ!
    あいつらを失うくらいなら、それぐらい安いもんじゃぁねーか!!
    それに結局、『2回目の世界』であいつらを騙し通したんだ・・・
    そんな俺が信頼とか どうとか気にするなんてな。

    だけど、みんなから協力を取り付けてどうする・・・
    俺1人で考えるよりは、いい案を出してくれるかも知れんが、結局は夕呼先生を動かすことはできねーだろうなぁ・・・

    結局キーマンは夕呼先生なんだ・・・・
    夕呼先生に対抗できる人間って誰がいる・・・・
    ・・・駄目だな・・・やっぱり一人で考えても思いつかねーや・・・・


「なぁ純夏、お前がOOユニットになれば、夕呼先生を動かすことができるんだろうけどな。
  でも・・・やっぱ納得できねーよ・・・・・・・とにかく出来るだけ足掻いてみせるからな・・・」


 脳髄の部屋を出た後、武はグラウンドへと向かって行く。

 







「これは、白銀中尉!! どうかなされましたか?」
「おっと、冥夜か・・・ だから中尉はやめてくれって言っているだろ・・・」

 少し考えた冥夜はニヤリと笑い言い直す。

「ふむ・・・では武、何をしているのだ?」
「ああ、ちょっと考え事をね・・・ お前は自主訓練か? 一刻もはやく衛士になりたいって感じだな・・・」

「ふふ・・・そう見えるのであれば、ずいぶん観察力があるのだな」
「・・・・・・・・・・・」
「―― ん? 私の顔に何かついておるか?」


 ふと手を伸ばし、冥夜の頬を フニフニとさわる武。


「な、なにをするのだ、そなたっ!! 私を辱めようとするなら・・・・・・・・・ た、武?・・・・ 今日は一体どうしたというのだ?」

「・・・・・わっ! すまねぇー 冥夜っ!!」

  自分の行動に今気がついたとばかりに、そう言って武は手を引っ込める。

「・・・・武。 そなたは なぜ涙を流しておるのだ。 私が何かしたのであろうか・・・・」

  冥夜に言われ初めて自分が泣いていたことに武は気付いた。

「そ、そうじゃぁねーよ・・・・冥夜にそっくりな知り合いが俺にはいてよ・・・・ つい、そいつのことを思い出しちまって・・・・
  ははは・・・本当にすまねーー、ちょっと俺 どうかしてたよ・・・」


 『2回目の世界』 の冥夜でないと わかっていても、やはり2人きりになると心の動揺が隠せない。

 一方、冥夜はというと



―― 私に対する数々の気安い態度・・・・・ 私によく似た知り合い・・・・ ま、まさか、こやつ姉上の知り合いなのか!?


 なんだか 激しく勘違いをしていた。


「いや、本当にすまねえ。 訓練の邪魔をしちまったようだな・・・・」

「そ、そんなことは無いぞ、武・・・ それよりも、私によく似た知り合いのことを話してもらえないだろうか・・・・
  じ、自分の知らないところに よく似た人間がいるというのは、中々興味深い話ではないか」

「・・・・そうだな、お前には聞いて欲しい・・・かな・・・・・
  そ、そいつはさ、俺が訓練兵の時に出会った奴なんだが、いつもこの星、この国を、日本を守りたいって言ってたよ・・・・・」

「・・・・・そうか・・・・」

「自分のために生きるってことがなくて、この国とその未来のことばかり考えて
 最初は頑固で 融通が利かない奴だなって思ってたけど・・・
 まぁそいつは複雑な状況に置かれてることを俺なんかは知らなくてさ。 そのことで衝突とかもしたよ」

「・・・・むぅ、よく無事であったな・・・武・・」
  将軍と衝突する勇気があるとはなかなか凄い奴だ、と思う冥夜。


「おまけに生き別れになっちまった姉妹が大変な境遇だったり、俺なんかよりずっと背負っているものが違ったからさ
  すれ違うこともざらにあったけど、俺が間違えた時には 殴ってでも道を正してくれる俺にとっての『尊い人』だったんだ・・・
  だから あいつには、ほんと頭が上がらねぇーよ」

「そう、であったか・・・・」


 冥夜は考える。
 白銀という名は聞いたことがないが、おそらく武は五摂家の中の分家の出なのであろう。
 そうでなければ政威大将軍に近づくことなどかなわぬからだ。

 しかしそう考えれば、この年齢にして中尉というのも決して珍しいことではない。
 それに五摂家の人間であれば、なおさら今 武が言った姉妹というのが冥夜本人というのには気付いておらぬはず・・・・・・


―― ふふっ世間というものは本当に狭いな・・・・ 武め・・・ 私がその姉妹と知ったらどんな顔をするであろうか?

 もちろん そのようなことは決して口外できないのではあるが・・・・
 ただ、この時の冥夜は姉の話が聞けたと思い日頃では考えられないくらい油断をしていた・・


「あいつはさ、その最期のときまで誇り高く、気高かったよ・・・  俺はそんなあいつを心から尊敬している・・・」


「―― ち、ちょっとまて、武!! 姉上を勝手に殺すでない!!!」   そうツッコミを入れてしまう冥夜。

「――――――?? 俺は悠陽殿下の話などは・・・・・・・」  と、武の方も思わずそのように反応してしまったのであった。


 彼もまた 『2回目の世界』 の冥夜を思い 泣くまいと我慢をして心の余裕を無くしていた。
 悠陽と冥夜の関係は、政治的な問題を含むため ごく一部の関係者しか知らない事実である。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「すまない武、どうやら私は そなたの話を早合点していたようだ・・・・だがな、そなたはなぜ私の姉上のことを知っている・・・ お主、何者だ」

 気付くと冥夜は手に皆流神威 を居合いに構え、只ならぬ気配を発していた。



    




「やれやれ・・・何者だと言われても白銀武だとしか言いようが無いよ・・・
  それに冥夜と悠陽殿下の関係を知っていることについては、NEED TO KNOW だ。 一介の訓練兵に話すべき事柄ではない・・・」

 刹那の出来事であった

 武は突然、後方に飛び去り冥夜との間に距離をとる。
 それに驚いたのは、冥夜のほうである
 武を切るつもりで抜刀しようとした。 その距離は、必殺の間合いであったにも関わらず刀を抜く前に逃げられたのだ・・・


「――くっ・・・」 と苦虫を噛み潰したような顔をする冥夜。

 こやつかなりできる・・・それに私の挙動を見切っている・・・・
 冥夜には目の前の同い年の男が、突然底知れない存在として圧し掛かってきた。



―― まったく、伊隅大尉が冥夜を 『抜き身の刀』 と評したが今のは、まさにそうだな。

 そう考えながら、武は話を切り出す。

「落ち着けよ冥夜。 普通の訓練兵になら言うつもりはないがお前は特別だ・・・ 話してやってもいいぜ?」
 

 俺の言うことには、この世界には何の根拠も無い。
 そして、冥夜の知っているレベルの情報ではおそらく俺の情報について判断することは出来はしないだろうと・・・


「ただし、それは明日だ。 そして月詠中尉と一緒に聞いて欲しい」
「・・・・・どうしてそこで月詠の名前が出てくるのだ武。 やはりお前は帝国の軍人なのか?」

「そうじゃない。 俺が話そうとしていることは、お前にとって おそらくとても信じられないことばかりなんでな。
  残念だが、ただ話しても今の冥夜を混乱させるだけにしかならないと思う。 だが決して冥夜を侮っているわけじゃない。
  月詠中尉の持っている情報なら、もしかして 俺の話をある程度検証できる人になってくれるかもしれないから・・・
  それに、近い将来 月詠さんの手を借りることになると思うから都合がいいんだ」

「・・・・・いいだろう、武・・・時間は?」
「今日と同じ時間にグラウンドで待っていてくれ」
「うむ・・・わかった・・・」


 そういって冥夜と武は別れた。











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