2001年10月23日
「白銀中尉どうしました?」
グラウンドにやってきた武に
まりもは声をかけてきた 。
「だから中尉はやめてくださいよ、まりもちゃん。 今日は軍曹の下で体を動かそうと思ってね、よろしくー」
そう言って武はトラックを走りながら自分の身体のことを確認する。
――
ふむ・・・『2回目の世界』と同様、体力は落ちてないなぁ・・・・
自主訓練は必要だが、今は中尉なので 『2回目の世界』
のように冥夜たちと一緒に訓練する必要は無いかもしれないな。
しかし、あいつらと信頼関係を作るには、やはり一緒に訓練したほうがいいのか?
でも、時間は限られているんだ。 00ユニットが完成すれば、冥夜達にかまってやれなくなると思うしな〜〜
それまでに教えられることは教えておくべきかな。
武はそう結論づけて、まりものところに引き返してきた。
「まりもちゃん、ちょっといいかな?」
「なんですか?
中尉」
「特殊任務が入ってない間は、極力207B小隊の訓練に付き合うことに決めたから」
「決めたと申されても・・・ 中尉の先の運動量を見てましても、訓練の必要は無いように思えるのですが・・・」
「まぁね、しかし
あいつらの刺激にはなるでしょ?
だから、俺も一緒に扱ってください」
「そうですか、そういうことなら了解しました」
「よし! 次はケージにあるあの装備を担いで10キロ行軍だ!」
そう叫ぶ
まりも。
「じゃあ、俺は完全装備で出ますね」
「「――!!」」
「神宮寺軍曹、私も完全装備で行きます」
「いいだろう。 好きにしろ榊」
それにつられ私も、と声を上げる冥夜と慧。
うう〜〜っ
と悩んでいた壬姫も結局は完全装備で出ることになった。
―― なんだかんだ言ってみんな負けず嫌いだもんなぁ。
そう思いながら『2回目の世界』より順調に鍛えることが出来そうだと確信する武であった。
―――― 夜
「ちわーっす、時空転移装置はどうなりましたか? 先生」
「ノンキね、白銀・・・まぁ装置のほうは順調よ。 これが出来ないと新しい理論は手に入らないんでしょ」
「そうですね。 あと、霞はいますか?
この後、実験がはじまるまで、ずっと一緒にいたいんですけど?」
「何・・・あなたそんな趣味があるの?」
「変なこと言わないでくださいよ先生。 実験中に霞が俺のイメージを捉えやすくするためですよ」
「――!! そうね、装置のことで気が回らなかったわ。 そうしてちょうだい」
そうして武は純夏が設置されている部屋に移動する。
「やぁ、霞。 今日も純夏と話をしてくれているのか?」
「・・・はい、白銀さん」
「そっか、ありがとな・・・
あと、明日の実験まで霞と一緒にいることになったから。 そのほうが実験時間が延びるんだ」
「わかりました・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
青い光に包まれた脳を見ていると武は不思議な気分になってくる。
あれほど気味が悪いと思っていたものが、純夏であると分かると愛おしくなってくるのだ。
そして、そんな自分の心変わりに苦笑いが出てくる。
「なぁ霞 。いまの純夏に俺が話をすることって出来るのか?」
「――?」
「うーんつまり、俺の心を霞がリーディングしてそれを直接
純夏にプロジェクションすることは可能なのかな?」
「はい、それはできますが、純夏さんの心は今もグチャグチャです。
時折、断片的なイメージが見えるだけで会話が成り立つことはありません。 ですから・・・」
「いや、それでもいいんだ。 会話が成り立た無くっても
それでもいい。
ただ、いまのこいつは脳だけになっちまってその暗闇の中で俺を待ち続けてるんじゃないのかなって思うんだ」
「・・・・・・・・・・」
「人間ってさ、常に外の世界に対して何かしらの希望を持ってないと
生きていけないだろ?
この世界の純夏の前で、この世界の俺はBETAに殴り殺されてしまったんだ・・・・」
「――!!」
「それでもさ、そんな事実があってもさ、きっと俺がどこからかやって来てBETAをやっつけて
自分を助けてくれるんじゃないかって思っていたんじゃないかな?・・・うん、純夏なら絶対そう思ってるさ。
だから
そんな純夏の願いが、俺への想いが、因果導体って形でこの世界に再び俺を作りだしたんじゃないかな。
まったくな、どれだけ俺のことを想ってんだよ・・・・信じてんだよ・・・・俺は・・ずっとさ・・・気づいてやれなかったのに・・・・」
「・・・
白銀さん」
「どんな世界に居ても、どんな形になっても純夏は純夏だ・・・俺にとっては変わりないよ。
そのことをさ、いつでも一緒ってことをさ、今のこいつに伝えたいんだ」
「・・・わかりました。 白銀さん」
そういって霞は片方の手を純夏から武に向けて目を瞑る。
――純夏、聞こえてるか?本当に随分と待たせちまったな。 俺だ、武だ
といっても、この世界の白銀武じゃあ、無いんだけどな、その辺は謝るよ。
でもお前なら、気にしないだろ?俺は気にしないぜ。
純夏はどの世界でもどんな姿になっても純夏なんだからな。
俺はさ、もともとBETAの居ない世界に住んでてさ、そんでお前は幼馴染なんだ。
いつも一緒にいて、遊んで、喧嘩して、バカやってさ、
お前が居なきゃ、俺じゃないってほど、本当に一緒だったんだ・・・
そんな俺がこのBETAのいる世界に来たときは、まぁ大変だったわ。
何もかもが違っていて、そして狂気に満ちてた・・・何より純夏、お前が居なかったもんな。
いや、すまねー、お前はすぐそばに居たのに俺は気づいてやれなかった。
それから何度も『1回目の世界』をループして気づいたよ。
俺には、純夏が必要なんだって・・・
そうしたら、その気持ちに気づいたら前に進めたよ・・・
それでも『2回目の世界』でも手遅れだったけどな・・・
お前の存在に気づいてやれたのに、全てが遅かった。
OOユニットになった後だったもんな。
でも、お前はすげーよ、お前のおかげで人類は初めてBETAのオリジナルハイヴを叩くことが出来たんだぜ
俺にとっても、全てを成し遂げて、元の世界に帰る予定だったんだけど
またこうしてここに居るんだ。
別に落ち込んじゃいないぜ。 それに今は因果導体であることに感謝してるくらいさ。
1つでも俺のおかげで救える世界があるんなら、救うまでだからな。
そうすることが、今まで失われた世界とともに戦っていた仲間に対する礼儀だとおもうから・・・
まぁそんな訳だから純夏、またよろしくな。
・・・・・・・・・・・
「ん、ありがとな。 霞」
「・・・・色々、あったんですね」 少し疲れた感じに答える霞
「そっか、お前にも見えてたんだ・・・
ま、『2回目の世界』よりもいい未来を選択してやるさ。 これから忙しくなるだろうけどヨロシクな」
「ハイ、白銀さん」
・・・・・・・・・
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