―――― 2001年11月29日

 

 



 

 

 

 

 

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――― どうするっ! 
      どうするんだっ!!
     このままじゃ、このままじゃ、本当に全滅しちまうぞ・・・・・・っ!!

     純夏が前の状態に戻されちまったとすれば・・・・・・
     回復には時間が掛かるっ!

――― 残弾もない! 主砲も打てない!! 脱出も撤退もできない!!


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「道を指し示そうとする者は、背負うべき責務の重さから・・・目を背けてはならないのです
 そして・・・・・・自らの手を汚すことを、厭うてはならないのです」

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「――――『この世界』は・・・・・・また終わっちまうっ!!」

「オレがここで死んだら・・・・・・世界はまら2ヶ月前にもどっちまうんだ・・・・・・!!」

「――――みんなが辛い思いをする所なんて・・・オレは・・・もう見たくない・・・・・・!!」

「――――おまえが辛い思いをするのをもう一度見るなんて・・・絶対に嫌なんだ・・・・!!!」


「――――オレと一緒に戦ってくれっ! ――――みんなの『この世界』を一緒に守ってくれ!!」


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「――――ううッ・・・やめろォォォォォッ!!」

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「・・・・・・・・・・・・・・・・人類をッ・・・・・・・・・・・・なめるな・・・・・ッ・・・・・・・・」
「――――人間をなめるなあぁぁぁぁ!!!」

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「・・・・・タケル・・・早く撃つのだ・・・・」

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「頼む・・・ 早く・・・ 撃ってくれ・・・・・」

 

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「うん、そう言うと思ったよ・・・」

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「・・・・約束したから・・・だから冥夜なの?」

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「・・・・・・オレは冥夜が・・・・・・好きだ」
「何もかも・・・・・・変るよ?」
「ああ・・・」
「辛いこともたくさんあるよ、きっと」
「ああ・・・」
「逃げてきたって、ワタシは助けてあげないよ?」

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「ふふ・・・・・・それでこそ・・・・・・カッコイイたけるちゃんだ・・・・・・」

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「・・・・・・・・じぁあ・・・・・・ばいばい・・・・・・」

 

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「・・・・・・これあげる」
「・・・・・・鉢植え? 何、この花」
「・・・・・・セントポーリア」

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「・・・これ、たまのだろ? あいつ一生懸命育ててたじゃん」
「・・・・・・白銀のだから」


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「おまえをオレのものにして・・・・・・いいか?」
「―――!?」

「だ・・・・・・だだっ、だめだ! い、いいや! だ、だめではないが・・・・・・このような場所では・・・・・・」
「ちゅーの次はえっちだろ」
「あ、あぅ・・・・・・そ、それはいささかせっかち過ぎるぞ・・・・・・」


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「諸君も知っての通り、人類史上初の地球外起源生命との戦争は、既に開始から30余年・・・・・・暗黒の歴史を刻み続けている。
 地球人口は既に十数億人に減り、しかも未だ戦況は好転していない」
 
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「しかしながら、本日12月24日2359をもって、オルタネイティヴ計画は次の段階に進むことになった――」

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「オルタネイティヴ4って一体なんなんですか!? オルタネイティヴって・・・どういうものなんですか?」

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「オルタネイティヴ5は何を組み込むんですか!? 4は何か成果を上げましたか?」
「……当然よ」
「嘘だ! オレ達はこんなだし、夕呼先生だって・・・・・・・・・」

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「結果出さなきゃ意味無いでしょ?」
「・・・・・・・・・」
「オレ達は戦争やッてんだ・・・・・・どんなに努力しても、負けたら負けなんだ!」


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――― なぁ、純夏・・・ この世界にはお前は存在せず、オレの過去を証明してくれるものは何もない。
     でも、それでも、未来はあった。

     命を賭けて守らなければならない、とてもあやういものではあるのだけれども―――

     ゲームガイが突然壊れて、動かなくなったあの日、オレの居場所が決まったような気がした。
     何をどうしても、もう二度とお前のいるあの世界を見ることは無いのだと確信した―――


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――― 彼女のためなら何でもできる。
     死ぬこともいとわない。

 

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「早く行けッ・・・・・・冥夜ッ! なんとしてでも先生を・・・・」
「――――し、しかし、そなたがそれでは・・・・・・」

「オレは、まだいい・・・ オレは死ねないんだ・・・ オレは『やり直し』 が利くからな・・・ だが、『この世界』はそうはいかないんだっ!」
「そなた・・・ そなたはいったい何を・・・・!?」

「先生は・・・ 夕呼先生は、オレ達の希望なんだ・・・・・・ 先生が、本気になれば・・・ あの人なら・・やってくれるはずだ!」

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「なぁ、美琴・・・ やっぱりお前の勘は良く当たるな・・・・・・ お前が残してくれたS−11・・・ここで使わせて貰うぜ・・・・・・」

「すまねぇ、みんな・・・ 予定より早くそっちに逝ってしまいそうだぜ・・・・・・ 冥夜ッ・・・後は頼んだぞ・・・」

 

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「オレは純夏を愛してる」
「オレにとって純夏は一番大切な人間だ」

「・・・・・・・・・・・・・タケル・・・・・・ちゃん・・・」

「オレは『この世界』の純夏との思い出は殆ど持っていない――――」

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「付き合おうとかそう言うことを無理強いするつもりはない。
 それでもオレは純夏を愛している」

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「機械と同じなんだよ。作り物なの!」
「それなのに愛しているとか、踏みにじったとか・・・・・・バカみたいだよ」

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「わかってないよ。はっきり言うけど、そういうタケルちゃんが鬱陶しいの!」
「――――えッ・・・・・・!?」
「こっちは任務に集中したいのに、愛だの恋だの言ってくるからさ・・・・・・」
「じゃあ・・・・・・なんでおまえあんなに辛そうに・・・・・・」
「作り物相手に真剣になっているタケルちゃん、憐れすぎて・・・・・・・見ていて辛いんだよ・・・・・・」

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「ゴメンね・・・・・・ でもタケルちゃんがしつこいからいけないんだよ・・・・・・?」

 


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「――――!? お前達はなんなんだッ?」

 ・・・・・・・・・・・ブツブツ・・・・ブツブツ・・ブツブツ・・・・・・

「離せッ・・・・チクショウ!!・・・・離せッ・・離せッ・・離しやがれッ!!」


 ・・・・・・・・・・・ブツブツ・・・・ブツブツ・・ブツブツ・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・ブツブツ・・・・ブツブツ・・ブツブツ・・・・・・

「うおおおおおおおぉぉぉぉーーーーーーーーッ!!!!」

 ・・・・・・・・・・・ブツブツ・・・・ブツブツ・・ブツブツ・・・・・・

「――――やめろっ! やめろっ! やめろッ!! オレの中に入って来るなーーーーーッ!!!!」

 ・・・・・・・・・・・ブツブツ・・・・ブツブツ・・ブツブツ・・・・・・

「やめろ・・・・やめてくれ・・・・ もう許してくれ・・・・ 嫌だ・・嫌だ・・ もう嫌だ・・・・ッ・・・
 もう見たくない・・・ やめてくれ・・・・
 なんで・・・なんで・・こんな事になっちまったんだ・・・?」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・これを・・・オレが望んだって言うのか・・・・?」

 

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 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・タケルちゃん・・・ごめんなさい・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「わたしがタケルちゃんを好きになったから、いけないの・・・・ 
 わたしがタケルちゃんを求めたからいけないの・・・
 わたしがタケルちゃんを愛したからいけないの・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・タケルちゃん・・・ごめんなさい・・・」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「タケルちゃんとただ、一緒に居たかっただけなのに・・・・
 タケルちゃんとただ、触れあっていたかっただけなのに・・・
 タケルちゃんをただ、愛していたかっただけなのに・・・」

「何がいけなかったんだろう・・・? わたしが人を愛する事が罪なのかな・・・?
 ・・・・・・・だから、こんな身体になっちゃったのかな?
 ・・・・・でも・・・酷いよ・・・・・タケルちゃんは何も悪くない・・・・ただ・・・・巻き込まれただけだよ?」

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「・・・・・わたしが全て悪い・・・・ 全部わたしが悪い・・・・ 何もかもわたしが悪い・・・・」

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

 

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「―――― 私は、たけるさんのことが大好きですっ!!」

「この想いが、千鶴さんや慧さん達に負けているとは思いませんっ!!」

「たけるさんのことを考えると、とってもポカポカするんです。胸が苦しくなるんです・・・」

「とっても、とっても大好きなんですっ!!
 なのに・・・ なんで私には、他の世界での たけるさんとの 『思い出』 が入ってこないんですかっ?
 みなさんは、ソレを楽しそうに話します・・・ 私はこんなに好きなのに・・・ まだ 『想い』 が足りないんですかっ?
 教えてくださいっ!!!」


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「殺す・・殺す・・殺す・・皆殺しだ、ぜってーー殺すっ!!!」

「ちくしょうーーっ!! ぢくしょうーーっ!! ぢぐしょうーーっ!! よくも・・・ よくも・・ やりやがッたなっ!!!」
「なぜなんだよ・・・ なぜなんだ!! なぜ、死ななくちゃあいけないんだよっ・・・ なんで壬姫がしななくちゃあいけないんだっーーーー!!!!」

 

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「ねぇ、タケル・・・・ ボクはね、タケルの事がとっても大好きなんだよ」

「――― な、なんだよ、美琴。 そんなことは分かりきってるよ・・・ なんつぅーーか、面と向って言われると恥ずかしいな・・・」

「ずっとね、ずっーとね・・・ 覚えていて欲しいんだ・・・」
「・・・・・・・・・・・」

「もし・・・・ ボクがみんなみたいにオカシクなったら、迷わずコロシテね・・・・」
「・・・・・・・・・・・」

「これは、約束だよ」


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「・・・・・ゥグッ・・・・・ッヒック・・・・・・・・・・・オレを・・・・オレを・・・・置いていくなよ・・置いていかないでくれ・・・・・美琴・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・オレが・・・何か悪いことでもしたのかよ・・・美琴達が・・・・この世界の連中がそんなに憎いのかよ・・・・ッ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「チクショウ・・・チクショウ・・・チクショウッ! こんなの間違っている・・・ ぜっていこんなの間違っている・・・ッ!
 オレは・・・認めない・・・・こんな結末はみとめねぇーーーーーーッ!!!」

 

 

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「うわあぁぁぁぁーーーーーーッ!!」


 真夜中、大汗をかいて武は目が覚さめた。

 部屋はまだ暗く、自分が何か悪夢を見て、飛び起きたのだとすぐ理解した。
 
―― なんだろうか・・・ あの生々しさは・・・・

 とても長く、そして重苦しい夢を見ていたと感じ、感情の高ぶりを抑えながら内容を思い出そうと試みた・・・
 しかし、上手くできない。

―― とても・・・ とても大切なことだった気がする・・・

 自然と頬から涙が落ちた。
 激しい喪失感が体を襲い、急に寒気が襲ってくる。
 それでも構うことなく、あの悪夢の中身を探ろうとする武。

 だが、結局は思い出すことは叶わず、起き上がっていた上半身を暖かい布団に沈め、再び眠ろうとすることしかできなかった。

ぷに・・・・

(なんだ?)

ぷにッ・・・ ぷにッ・・・

 どうも自分の布団の中に、何か柔らかいものが入っている。そのお陰で、どうもベッドの中で身動きがとりづらい。

ぷにッ・・・ ぷにッ・・・ ぷにッ・・・ ぷにッ・・・

(確か、寝る前には、オレのベッドは十分広かった筈なんだがなぁ・・・)

 そう思いながら、暗闇の中、その柔らかい物体の正体を確かめようと揉みまくる。

ぷにッ・・・ぷにッ・・・ぷにッ・・・ぷにッ・・・ぷにッ・・・ぷにッ・・・ぷにッ・・・ぷにッ・・・
ぷにッ・・・ぷにッ・・・ぷにッ・・・ぷにッ・・・ぷにッ・・・ぷにッ・・・ぷにッ・・・――――

「ん・・・ぁはあぁ・・・・・・・・・・・」

 目の前から、吐息が聞こえてきた。

「・・・・・・エッ?」

 いや、吐息の他にも何やら甘い匂いがする。

ぷにッ・・・ぷにッ・・・ぷにッ・・・ぷにッ・・・ぷにッ・・・ぷにッ・・・ぷにッ・・・ぷにッ・・・ぷにッ・・・――――

「・・・・んふぅ・・・・ふぁぁあぁ・・・・んふふふ・・・タケル・・・そなたはせっかちだなぁ・・・」

 間近で冥夜の声がした。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 暗闇の中、武は目をこらしてみると、ゆっくりと冥夜の顔が確認できた・・・
 その距離は十数cm。

「―――――ッ!?」

(な、な、なんでオレのベッドの中に冥夜がいるんだよッ!!)

 危うく大声で叫びそうになるのを、抑える武。
 この部屋には、純夏も寝ているのだ。

 もしこの事態を知られたらと思うと、先ほど見た悪夢とは別の寒気が武の体を襲う。


(おい、冥夜! なんで一緒に寝ているんだ!)

 小声で隣に寝ている冥夜へ武は抗議する。

(―――? それは、そなたと一緒に居たいからに決まっているであろう・・・)

 冥夜はそう言って可愛らしく笑って見せると、武もドキドキして上手く対応ができない。 

(と、とにかく自分のベッドに戻れ!)
(一人で眠るのは寒い故、却下だ)
(む・・・・・むぅ・・・・・)

 妙に強情な冥夜に一生懸命説得を試すがのらりくらりとする彼女に武はホトホトに困るのであった。

 武にとって、冥夜が自分のベッドに何度か潜り込んできたことが前に何度かあったが、それは未だに慣れることが無い。
 男としては、冥夜みたいな美人がそんなことをしてくれるとうれしくないわけが無いが、純夏の反応が素直に恐い。

 結局、冥夜が動かないのであれば自分が隣のベッドに移動するしかないと武は思い、仕方なく背後に移動しようとした。

がさごそ・・がさごそ・・・ もふッ・・・・

(ん?)

もふッ・・・・もふッ・・・・もふッ・・・・


 武は思わず体を後ろにずらそうとするが、なぜか思うように下がれない。

 顔だけ後ろに向けてみると・・・・

(―― な、なんで 純夏まで俺のベッドで寝てんだよっ!!)

 後ろには、すやすやと純夏が寝ていて後ろに下がれないのであった。

「んん・・・・ん・・・・・タケルちゃん・・・・」

 純夏は寝言でそう呟くと、密着した武の体に腕を回してくる。

(―――――お、おい! コ、コラ・・・・ 純夏ッ! 抱きつくんじゃねぇ!!)

 しかし、寝ている純夏に武の言葉は届くはずがない。

(う・・・・動けねぇ・・・・なんて力だ・・・・ 今純夏ってリハビリ中じゃ無かったのか?)

 ピッチリと体を密着させる純夏。

(むっ・・ 鑑・・・そなたは大胆だな・・・・ わたしも負けてられぬッ!!)

 そう言って今度は前方の冥夜が武に抱きついて来た!

(お、お前らいい加減にしろ〜〜〜〜〜!!)

 だが、武の抗議は空しく響くだけで、いつの間にか冥夜もスヤスヤと寝ているのである。


(あの〜・・・・・・ オレはどうすればいいんですかね・・・・・・)


 可愛い女の子に挟まれて眠るなど、男としては羨ましい状況には違いなく、武の体の方もムラムラと大変元気になっている。

 甘い匂い、柔らかい肌と押し当てられた胸の弾力におもわず脳が蕩けそうになる。
 首筋から耳にかけられる吐息にゾクリとして、抱きしめたい衝動に駆られるが、寝ている人間を襲うことなどできないし、
 冥夜か純夏か一方を選べていない状況では、まさにへびの生殺し状態でしかなく、欲望の捌け口が見いだせない武にとっては拷問に等しい仕打ちであった。

―― 冥夜か純夏・・・どっちかを早く選べば楽になるんだけどな・・・

 そうは思っているのだが、一方を選ぶと他方の悲しそうな目が浮かび、武はやりきれなくなる。
 この世界で目覚めて強く感じている事であるが、武は 冥夜も純夏も掛け値無しで好きだと思う自分が居たのだった。

 もちろん、前から友達以上のモノは感じていたが、気付けばそれは恋愛感情になっていた。
 冥夜と純夏を見ていると、触りたい、抱きしめたいという気持ちが抑えられなくなっている自分がいた。

 2人の顔を見ていたら、なんだか訳もなく 泣きそうになってしまうのである。

 全くの異世界に放り出されて混乱し、自分の2人に対しての想いの質の変化に混乱し、
 2人と離れたくない・・・傷つけたくないと思うとどうすればよいか分からなくなっていた。

(とにかくこんな状況じゃ、眠れねーーーーー!!)

 と武は思う。
 だが、寝言で

「タケル・・・・」
「タケルちゃん・・・」

 と 自分の名前を幸せそうに呟く冥夜と純夏を見ていて、武は怒るに怒れなくなってしまっていた。
 結局、武は悶々ムラムラしたまま、 朝に霞が起こしにくるまで、生殺しで過ごすことになるのであった。






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 午前は、純夏は自分で歩けるようになるためのリハビリを、武と霞、冥夜は戦術機のシミュレータールームにやって来ていた。

 それは、昨日に冥夜がバルジャーノンの研究をしていたということから、ゲーム自体も十数時間ほどやったことがあると言っていた。
 その冥夜は、どれくらい戦術機のシミュレーターで成績が出せるかということを確認するためにきたであった。

 もし、初プレイで武と同じように冥夜がこの世界の一般的衛士の基準を上回る好成績が叩き出せるのであれば、やはりバルジャーノンと戦術機の操作には何らかの関連性があるという仮説の裏付けになる。

 武達は夕呼を説得する為に一つでも有効なデータが欲しいのであった。


「それにしても冥夜の奴、遅いな・・・」

 シミュレーターに乗ることは冥夜自身も楽しみにしているようであった。
 それに、シミュレーターはその基数も少ないこともあって、霞に無理を言って使わせて貰っているのだ。

 にもかかわらず、ロッカー室に入って以来 彼女は一向に出て来ない。
 さすがの武も冥夜に何かあってのではと心配になってきた。

「冥夜、何かあったのか!?」

 ロッカー室までやって来て、武は外から声をかける。

「タケル・・・その・・・なんだ・・・・・・・・」

「――――? どうしたんだよ・・・早く出てこいよ」

「このような格好を本当にしなければならないのか?」

 ドアの向こうからそう言う冥夜の声が聞こえてくる。
 それで武はなぜ冥夜が出てこれないのか思い当たった。

 昨日、戦術機のシミュレーターに乗ったときには、女の人もいた。
 その時見たパイロットスーツ、つまり衛士強化装備と言われるものは、身体にフィットした薄い膜で大部分ができており、胸やお尻などの形も水着以上に形がよく分かり正直、ちょっと、いや かなり いやらしく見える服であるのだ。

 冥夜がドアから出たがらない理由はそれであると武は思った。

「でもさ、冥夜。そのパイロットスーツのヘッドセットに付いている網膜ディスプレイを着けてないとシミュレーターでは何も見えないぞ」

「うう・・・・タ・タケルゥ・・・・」

 よほど嫌なのか、冥夜は弱気を含んだ声を出す。

「あのさ、冥夜。 とりあえず早くしようぜ! 今はオレ達しかいないけど、のんびりしていると他の奴が来るかもしれないぞ。
 オレ的には、そういう姿はオレ以外の他の奴らに見せたくないっていうのが素直な気持ちなんだけどさ・・・・」

 内心早く冥夜の姿が見たいと思いつつも、畏まった声で武は冥夜に呼び掛ける。
 
「そ、そうなのか・・・?」

 多少赤くなりつつも冥夜は観念したのか、ドアを開けて武の前に出てきたのであった・・・ 


「え・・・えええぇぇぇぇーーーーーーーーー!!!」



 何が予想外であったのか大きな声で武は驚いていた。

「バ、バカッ タケル!! ・・・・・そのように反応されると、こちらも恥ずかしいではないか・・・ッ!!」

 武が昨日見た強化装備は、一般の衛士用の黒のものであった。
 だが、今日冥夜が着ているものは、訓練兵向けの白のスーツであり、透明な保護膜はかなり透けていて冥夜の豊満な胸がピッチリとした膜で露わとなると同時に乳首なども うっすら透けていた。 

 また、腰の辺りも薄い透明な膜で肌が露わになっていて、ビキニなどよりも露出が激しく股間を覆うパーツの面積も小さくて全く際どいモノであった。


「じ、じろじろ見るでない、タケル!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「こ、こら、後ろに回り込もうとするでないぞッ!!」

 冥夜は胸を隠すように腕を組み、そして股間やお尻が見えないように体を横に向ける。
 そう言われても武はしばらくの間、冥夜の体から目が離せなかったのであった。

 そして、冥夜は赤い顔をしながらも、霞からシミュレーターやスーツの細かい説明を受けてシミュレーター用の大きな筐体の中へと乗り込んだ。


「―――――ッ!!!」


 一瞬の出来事であった。


   ドックン・・・ ドックン・・・ ドックン・・・


 シミュレーターの中に入った途端、幾つかのイメージが頭の中を満たし、そして過ぎ去っていく・・・


   ドックン・・・ ドックン・・・ ドックン・・・


 そのイメージの中では、何故かシミュレーターデッキの中で冥夜は武に抱かれていた。
 武の身体は逞しく、強引ではあるが、優しく、そしてその中で冥夜は幸せを感じ満たされていた。
 体中をみつめられ、下腹部の到る処をネットリと舐められ、唇にも何度もキスをされ、そして後ろから体を貫かれていた・・・


   ドックン・・・ ドックン・・・ ドックン・・・ ドックン・・・ ドックン・・・ ドックン・・・


「冥夜、どうしたんだよ、応答しろ」

 スピーカーから聞こえてくる声にハッと冥夜は我にかえった。

「どうしたんだ? なんか、さっきよりも一段と顔が赤いぞ?」
「―― き、き、気にするでないぞ、武・・・・・・さ、さあ、始めようではないか!」

 冥夜には、訳が分からなかった。
 何故あのようなイメージを見たのか?
 欲求不満? 自分の願望? もしかして未来予知? 纏まらない思考に彼女は翻弄されていた・・・  


 そうして冥夜は集中力を欠いたまま、霞が用意したプログラムを受けるのであった。

 結果をいえば、その成績はやはり、初めての訓練兵が出す成績を遥かに上回るもので、衛士達に勝るとも劣らないものであった。
 そして、そのデータに武はとても大喜びをして自分たちの仮説に自信を持つのだった。

 冥夜はというと、武を終始意識してしまい、顔を真っ赤にしたまま しどろもどろな対応をしてしまっていた。
 それによって、武からは余計に心配され さらにアタフタするのであった。

 

 

 

  ―――― 夕呼の執務室

 


「へ〜〜〜〜 3人寄れば文殊の知恵っていうけど、結構面白いことを考えてきたじゃない」

 武と冥夜が出してきた企画書に目を通しながら夕呼はそう言った。
 その内容が夕呼には予想外な物であったのか興味深そうに見ているようだった。

「あんた達の考えだと、白銀や御剣が初心者にもかかわらず、こっちの衛士達よりも遥かに優れた成績を出せたのは、
 このバルジャーノンっていうゲームによるところが大きいっていうのね?」

「はい、オレ達の操縦とこっちのパイロットの人達との操縦の仕方ってオレには根本的に違って見えるんです。
 ゲームってやられても死なないじゃないですか・・・ そのお陰もあってドンドン機体操作に対してシビアに考えることが身につくんです。
 キャンセルやコンボの事もそうですが、仮想体験で何度も訓練しているから状況に対する判断も速いんだと思います」

「まぁ、白銀・・・あんたの理屈が正しいのかどうなのか、わたしは衛士ではないから、よく分かんないわ。
 ただ、データを見る限り面白そうだとは思うわ。 
 このバルジャーノンっていう機械がここの衛士達にやらせて見てどういう影響があるかってのは興味が尽きないわね。
 いいわ、やってみなさい。 資金と人手、機材はこっちが用意してあげるわ」

 夕呼はニヤリと笑いながらそう言った。

「あ、ありがとうございます。 夕呼先生」
「ふふ、タケル・・・ 上手くいったな!」

 武は冥夜を見て嬉しそうに微笑み、そして彼女の方は心なしか顔が赤い。

「うーん、そうね・・・ ソフトの方は社に・・・ ハードの方はピアティフに任せようかしら?
 最近は色々とこっちの計画の変更で、結構人手が余っているものね」

 一方の夕呼は1人でブツブツと今後の段取りについて考えているようであった。


「それでね、白銀」
「―――あ、はい!」

「バルジャーノンって奴の試作機の方は1週間で仕上げなさい」

「「―――――ッ!!!」」

 この夕呼の言葉に2人は声を失った。


「ち、ちょっと待ってください、先生! いくらなんでも時間が短すぎませんか!?」
「そうです、香月副司令。 私たちの世界でのゲーム開発は少なくとも6ヶ月から1年ぐらいは普通に掛かるんです。 それを1週間とは・・・」

「ゲームガイだっけ? 携帯型とは言え、元となるプログラムは既にあるんでしょ? あたしがあんた達と同じ状態なら、こんな作業2日もあればできるわよ」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

「安心なさい。 こっちのスタッフは極めて優秀よ。 この基地にはこっちの世界で最も優れたコンピューターもあるしね。
 ゲームの完成像とと的確な指示を出す能力を持っていれば、あんた達でも1週間で完成させることができるわ」

 おおよそ夕呼の言葉は武達には納得できるものでは無かったが、その条件を受け入れるしかなかったのであった。

 そのあとは、技術士官であるイリーナ・ピアティフ中尉を紹介され、彼女には冥夜がついて元の世界のバルジャーノンの筐体がどう言ったものかを説明していった。
 武の方はというと、霞に携帯型のバルジャーノンを見せながらアーケード機との違いを図を描きながら伝えていこうとするのであった。
 その日は、結局 携帯型のゲームガイのエミュレーターの作成とそのエミュレーターを載せるハードには何が必要かなどの打ち合わせで時間が過ぎていくのであった。

 また武達が驚いたことに、エミュレーターなどは、翌朝にでも用意ができると霞が言い、それに合わせてハードの方も何とかなるとピアティフが言い切ったことで、こちらの世界の技術的な進歩を目の当たりにするのであった。

 

 


  ―――― 武達 3人の部屋



 夕食を終えると武、冥夜、純夏は「戦術機バルジャーノン再生計画」、通称 『B計画』 についての進捗状況を話し合っていた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 武にとっては、思いの外スムーズに進んでいると思っている。
 いや、今日の夕呼や霞、ピアティフの反応を見ていると、今のところ何も問題など無くこのまま試作機がすぐにできるのではという気になっていた。

 しかし昨日のようにはどうも会話が盛り上がらない。


「・・・・・冥夜・・・・冥夜ッ! ・・・・聞いているのか?」
「―――――――ッ!! ・・・・・す、すまぬ・・・タケル・・・」

 なぜか真っ赤になりながら冥夜は武に謝り出す。

「もう・・・・冥夜ったらなんだか変だよぉ〜〜〜 うぅ・・・・ ま、まさかタケルちゃんが何かしたんじゃ―――」

 パシコンッ―― と純夏の後頭部を叩く武。

「ったくアホなことを言いてんじゃねーよ・・・・ それより、本当に大丈夫かよ? お昼頃からなんか様子が変だぜ・・・」
「あ、ああ・・・ 本当に心配かけてすまない」

 そう言って今日何度目になるか分からない謝罪をルームメイトにする冥夜であった・・・

 結局、終始ぼーっとしたり、落ち着かなかったりしている冥夜は、身体を動かしてくると言って、ジャージ姿に着替え部屋から出て行った。

 武はやはりそんな冥夜が心配であったが、純夏は武と二人きりになれた所為か嬉しそうである。
 本来ならこの後は、この世界の常識や知識を学ぶための学習時間であったが予定を変更して
 今日のリハビリは終わっているにもかかわらず、特訓と称して武に協力してもらう。

 そして、純夏は武にしがみついて歩行訓練をしたり、武に優しくマッサージをしてもらったりと、とてもご満悦な様子で一日を終えるのであった。